巨人の「連敗記録」を止めてしまったカード初戦
「球団ワースト13連敗」の巨人をホームに迎えた交流戦シリーズは、今シーズン最も劇的な3日間になった。口の悪い野球ファンは「巨人連敗ロシアンルーレット」などと呼んで、連敗をストップさせるのはどこのチームかで盛り上がっていた。が、実はファイターズも地味に5連敗中だったのだ。4月にも10連敗を記録しているから大型連敗の悲哀はどっこいどっこいだ。
ここ最近は内容も悪かった。投手は四球で状況を悪くし、野手は大事なところで凡ミスをする。打線はバントをしくじり、4番中田翔は不発でベンチのムードをこわばらせる。たぶん巨人の連敗を止めるのはうちだろうなと思った。巨人は死に物狂いで来るに違いない。それで何かを感じてほしい。
僕が漠然とイメージしたのは「感動」だ。今は起爆剤がほしい。最悪なのは陰気になんとなーく1勝2敗くらいで対戦が終わることだ。それも相手の自滅でかろうじて1勝を拾うようなパターン。そうではなくて「感動」がほしい。チームが燃え上がるような勝利がほしい。
第1戦は案の定、負けだった。悪い予感はめっぽう当たる。大事な場面で巨人・坂本勇人は勝ち越しタイムリーを放ち、うちの大野奨太はセーフティスクイズに失敗した。両チームの主将がアヤになった試合だが、要はマイコラスが打てなかったのだ。ファイターズは6連敗である。栗山英樹監督は打順組み替えの決断をする。ポイントは2つあった。大田泰示、西川遥輝という好調な打者を1、2番で並べること。そして中田の4番をはく奪すること。
これはファイターズ的には非常に大きな出来事だ。去年6月、腰の張りを名目にスタメンから外されたことがあったけれど、栗山政権下で中田は(試合に出場するかぎり)文字通り不動の4番だった。それが3番スタメン起用である。
「下位で楽に打たせる」のでなく、むしろ打順をひとつ繰り上げるところが栗山流だ。「4番はく奪」のショックが薄れ、中田のメンツが立つ。栗山監督は4番から3番に「景色が変わる」ことで、いかに皆、4番につなごうとしているか気づいてほしかった。
僕らは中田がスタメン4番を外れた日を忘れない
第2戦は大田泰示の先頭打者ホームランで幕を開ける。巨人先発・田口麗斗の投球を読んで、早目に勝負をかけた豪快な7号。この3連戦は巨人が1番・陽岱鋼、2番石川慎吾で上位を組む等、「古巣対決」シリーズの様相があった。そのなかでひと際、輝きを放ったのが大田だった。
素晴らしい集中力だった。巨人ファンには大田の姿を見てもらいたい。そりゃ結果は打てるときも打てないときもあるのだ。が、今季は1軍に出てきてからずっとこのひたむきな姿だ。いつも考えている。やり切ろうとしている。ファイターズでの印象は状況を読んだバッティングをすることだ。8回裏は(1点ビハインドの状況で)四球の杉谷拳士を1塁において、センター前ヒットでつないだ。
それが中田のタイムリー2塁打を呼び込む。巨人は小刻みな継投で切り札・マシソンをぶつけてきた。中田は気持ちが入っていた。僕は中田は不思議なバッターだと思う。チャンスに強いというより、ピンチに強いのだ。この場面も1アウト2、3塁のチャンスというより、打てなかったら中田自身もチームも大きな何かを失うピンチに思えた。マシソンの変化球に体勢が崩されて、あまりいい見送り方に見えない。が、中田はストレートにしぼっていた。マシソンの剛球を左中間にガツン!
中田打ってくれ。中田打ってくれ。中田信じてるぞ。札幌ドームを埋め尽くした満員のファンはただそれだけを念じていた。下を向く中田を見たくない。ここで打ってくれ。ガツンと弾き返した瞬間、頭のなかが焼き切れた。真っ白に焼き切れて、意識がどこかに持っていかれる。自分は大声を出している。何を叫んでるのかわからない。とにかく大声だ。大声でたぶん中田の名を呼んでいる。
連敗を止めたのは「3番・中田」の逆転打だった。栗山監督はまた賭けに勝った。ぎりぎりだ。栗山ファイターズの根幹を揺るがしかねない、危ない橋だった。日頃、中田にあれこれ言う者も、なぜか中田が打つと熱狂してしまう。何だかわからない圧倒的な説得力なのだ。僕らは中田がスタメン4番を外れた日を忘れない。こんな劇的な試合はないだろう。