月坪4万円以上の賃料を負担できるテナントはほんの一握り
壊されたビルの多くは、都心部の容積率(土地面積に対して建設できる建物床面積の割合)割り増しの恩恵を受けて巨大なオフィスビルに生まれ変わる。
これからの東京は都心部には巨大ビルが林立する。ワンフロアの貸付面積も500坪程度はあたりまえ、中には1000坪を超えるような航空母艦のようなビルまで誕生する。
都心3区であれば賃料はおおむね月額坪当たり4万円を超える条件となってくる。
さて、これらのビルのすべてが出そろった時に、そうしたビルに入居するテナントがどのくらいいるのだろうか。
月坪4万円以上の賃料を負担できるテナントは、外資系金融機関、コンサルティング会社、国際法律事務所、一部の上場グローバル企業などほんの一握りにすぎない。マーケットにどんなに超高級物件を並べても、提示された条件を負担できるテナントはごく少数なのだ。
国内の有力デベロッパーは、相も変わらず、丸の内は三菱、日本橋は三井、六本木は森、新宿は住友といった縄張りを作り、ライバルの領地に攻め込むという国盗り物語に余念がないが、みな自社の開発した巨大ビルには必ず坪4万円以上の賃料を負担してくれるテナントが入居してくれるはずだと考えているようだ。
不動産会社社長の名刺から東京本社のアドレスが消えていた
さて国際金融センターにしていく構想は実際にはどうだろうか。私の知人で香港に事務所を開いて金融、不動産関連で活躍している会社社長と先日会ったとき、彼の名刺から東京本社のアドレスが消えていた。
「東京の事務所はどうしたのですか」と尋ねる私に知人はこう答えてくれた。
「いや、事務所はありますが、名刺に記載するのはやめました。東京のアドレスじゃ、香港やシンガポールでは相手から『まあ、遠いところから大変ですね』とお客さん扱いされるからです」
これからは東京が国際金融センターになるのではと聞く私に彼は微笑しながら、
「牧野さん、東京はね、アジアのファーイースト(極東)なのですよ。シンガポールから7時間半もかけて来てくれる人なんか誰もいないですよ」
と語ってくれた。
2020年、巨大航空母艦ビルは、テナントを求めて既存の大型ビルのテナントを引っこ抜く。引っこ抜かれた大型ビルは中型ビルのテナントに手を付ける。中型ビルは小型ビルのテナントへ。東京オフィスビルマーケットは「テナントドミノ倒し」のスタートである。