仙一様愛のムチ~大学生編~
仙一様に怒られてから8年。大学生になった僕は再び熱いご指導を受ける事になる……。
場所は甲子園球場。大阪の大学に通っていた僕は同級生のお父様から阪神巨人戦バックネット裏のチケットを頂き、初の伝統の一戦を観戦。魂みたいなものはナゴヤ球場におき、ワクワクしながら席に着くと、通路を挟んだ解説席には、なんと! 中日での一次政権を終えた仙一様の姿が! これは8年前のリベンジ! とばかり、友人に「ちょっと星野さんにサインもらってくるわ」と言い残し、イキって席を立ったものの、いざ仙一様に近づくと8年前同様、タイの動物園で見たベンガルトラのような威圧感に圧倒され、急に足がすくんでしまった。
しかも手持ちでサインに使えそうな紙は使い古したスケジュール帳ぐらいしかなく、差し出したら怒られそうなニオイがプンプン……。しかしこのままでは仙一様に成長した姿を見せられない!
「坊主、サインが欲しいんだったら自分で言いに来い」
幼少期に仙一様から言われた言葉を思い出し、僕は覚悟を決め放送ブースの中に入りこみ仙一様の前に立った。
「星野さん、今日は阪神巨人戦に来ておりますが僕は実家が岐阜で普段中日ファンなのでサインを下さい」
緊張のあまり、恐ろしくまどろっこしい言い方だ。恐る恐る仙一様の顔を覗き込むと、代えたばかりの宮下が先頭バッターにフォアボールを出してしまった時のような怪訝な表情をしていた。……マズい。そう思った刹那、顔色は一変、8年前同様に僕の顔をキッと一睨みするなり「お前、本番5分前やぞ! 常識をわきまえろ!(バカヤロー!)」と一喝! ※バカヤロー!は言われていないかも知れない。恐怖でおののいている僕からスケジュール帳を取り上げると「夢・星野仙一」とサラサラ書き上げ、ホレ、と渡してくれた。
その日は仙一様のご指導のおかげで、折角の伝統の一戦もフワフワと宙に浮いたような状態だった。ただ思い出すのは仙一様の「お前、常識をわきまえろ!」という厳しいお言葉。「勇気を出す前に、常識をわきまえる」。また僕は仙一様のお陰で大人の階段を一つ登ったのであった。
その後、仙一様はドラゴンズを離れ、阪神、楽天の監督でご活躍されたのは周知の通り。一方の僕は社会人になってからも、仙一様と出会い、そしてご指導を受け続けるのだが……それはまた別の機会に話せたらと思う。
僕の人生、大事なことは仙一様に教わってきた。
一応、社会人の端くれとして仕事を任されたり、家庭を築いてこられたのも、節目節目に仙一様に怒られてきたからだ、と感謝している。
いつかこのコラムが仙一様の目にとまり、「俺はファンにバカヤローなんて言ったことないぞ(バカヤロー!)」と怒られるのを心の片隅で期待している。
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