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【イースタン・ヤクルト】戸田球場に響き渡るブルペン捕手・小山田貴雄の声

文春野球フレッシュオールスター2017

2017/07/13
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小山田シートで見た様々な光景

 二軍にブルペン捕手は3人いる。鮫島、新田は現役時代を知っていたが、育成で終わった小山田は、その現役時代を知らなかった。明るい性格は昔かららしい。彼らは守備練習の手伝いもすれば球拾いもし、打撃投手もする。投手陣の各塁送球を手伝えば、笑い無しに済まない。小山田がいればそこに目が行くので、戸田といえば彼の印象が強い。試合で座る席は小山田シートと勝手に命名した。

「昨日も来てましたよね?」

 彼が周りをよく見ているのにも驚く。通ううち声をかけてくれるようになった。そんなスタッフはそういない。あの笑顔が自分に向けられるのだから嬉しい。選手たちのこともよく見ているし、選手たちにしたらいい兄貴分だろう。彼のいる練習は活気があって楽しい。いない時は火が消えたよう。戸田が普通の練習場になってしまうから不思議だ。

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小山田がいればそこに目が行ってしまう ©HISATO

 昨年投手陣崩壊と言われた時、SNSで「小山田を一軍に上げろ」という人がいた。何とも斬新な意見だと思ったが、そう思われる程、投手陣を盛り上げているのは確かだと思う。

 小山田シートに座って1年以上。その間、色々な光景を見た。彼とは同期入団の由規。ブルペンから試合へ、苦しみながら壁を乗り越え、神宮へ復帰を果たした。褒められて笑顔を見せた八木は、程なくトレードで旅立った。代わってやってきた近藤を、小山田はいきなり「カズキ」と呼んでいたから、ああ心配は要らないなと思ったこと。

 ペレスが試合直前に登板回避した時に、急遽肩を作って出ていった徳山。あの時は「ジェフンに投げさせたら?」と冗談で話していた。二刀流は今、四国アイランドリーグplusで投打に活躍中と聞く。去年の平井は圧巻だった。5月頃、試合中のブルペンで投げ込んでいた球は、受けた小山田が「今日、滅茶苦茶速ぇ……」と呟く程。その後支配下となり、3年ぶりに一軍登板を勝ち取った。間近で見た光景は、どれもブルペン陣の姿と共に鮮やかに思い出される。

 秋の戦力外通告も殊更に強く焼き付いた。トライアウトに備える寺田や新垣、児山をブルペンで見た。熱心に励ます声を聞いた。骨折から一軍復帰したものの、木谷は打撃投手へと転身。リハビリのみだった中元は、怪我が癒えることなく引退した。1年間、一軍も二軍も全員を見ていたから、思い入れが募れば当然悲しいし寂しい。ただのファンでさえそうだから、毎日共に過ごした彼らはどんな思いだろう。それでも表には出さず、明るく元気な空気を作り続ける。

 去る者があれば、来る者もあり。また新人はやってきて、マウンドへと送り出されていく。大きな声で。

 一軍へ。全てはそのためだけれど、行ける者も行けない者もいる。戻って来る者。いなくなる者。厳しい世界だから余計に、見られる今を大切に。選手を。スタッフを。彼らの野球を。大好きな小山田シートで見守っていく。

「カモンお菊さん!」「奎二いいぞ!」。戸田の空は、神宮へと繋がっている。近くて遠い、そこへ。一人でも多くの投手を羽ばたかせるために、今日もあの声が響くのだ。

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