文春オンライン

新型コロナ騒動で「マスクをしていなければ変人扱い」韓国社会の同調圧力

握手はしない、3人以上の会議は禁止……

2020/02/11
note

財閥系企業では会議をすべてネットや電話で代替

 先ほど紹介した70代知人の法律事務所は「3人以上の会議は禁止」になった。「うちの事務所はおとなしい方だよ。財閥系企業では会議を全部、インターネットや電話で代替するところが相次いでいるそうだよ」。この知人も出勤時間を午前9時から10時台に変えた。事務所の最寄り駅の地下鉄・景福宮駅を中国人観光客が大勢利用するからだという。

 50代の知人が教授を務める大学は、3月1日に新学期が始まるはずだったが、「2週間はオンライン授業。その後は状況をみて、開講するかどうか判断する」となった。この知人によれば、中国人留学生を数千人単位で抱えるソウル市内の各大学は戦々兢々としているという。この知人の家族は2月半ばにシンガポール旅行を計画していたが、「中華系住民が多数を占める国だし、飛行機に乗るのも怖い」と言って、違約金40万ウォン(約4万円)を支払ってキャンセルしたという。

地下鉄のつり革清掃も徹底している ©getty

 感染防止に躍起になっているのは市民・企業だけではない。上述したように、MERSの流行では、対応を誤ったとして当時の朴槿恵政権が厳しい批判にさらされた。韓国大統領府ホームページにある国民請願コーナーでは、「中国人を入国禁止にしろ」という請願が1月23日の開設以来、70万人に迫る勢いだ。4月15日には総選挙も控えている。当然、文在寅政権も力を入れざるを得ない。

ADVERTISEMENT

「感染者がどこにいたのか隠せば、国民が怒り出す」

 韓国は2月2日、丁世均首相が「中国・湖北省に過去2週間の間に滞在した外国人の入国を禁止する」と発表した。しかし、それだけでは足りぬとばかり、丁首相は9日には中国内の他の地域からの入国制限なども検討する考えを示した。

 行動も徹底している。前出の新聞社勤務の40代知人によれば、感染者が出た場合にその行動経路を政府に尋ねれば、必ず明らかにしてくれるという。「感染者がどこにいたのか隠せば、国民が怒り出すからですよ」。

街角でもマスクをしていない人の姿はほとんど見当たらない ©getty

 ほとんどの感染者は自己申告に応じるが、なかには口を割らない人もいる。そんなときは、クレジットカードと携帯電話で割り出すという。韓国はカード社会。ガム1個買うにもカードを使い、現金を持たない人もいる。カードの履歴をみれば、どこに立ち寄ったかがわかる。持っていた携帯が利用したアンテナ基地局をたどれば、大体の行動パターンもわかる。「なかにはモーテルに立ち寄ったことがわかった人もいたそうですよ」と教えてくれた。

 そんな韓国の人々には、「武漢から1月29日の第1便チャーター機で日本に帰国した際、 ウイルスの検査を拒否した日本人2人がいた」というニュースは信じられないらしい。大統領府に勤務した経験がある50代の知人は「個人の自由は勿論大事だけれど、事が事だ。公共の利益が優先するのは当たり前じゃないか」と目を丸くしていた。

 韓国では今、皆が新型コロナウイルスと戦っている。マスクはその象徴ということなのだろう。

新型コロナ騒動で「マスクをしていなければ変人扱い」韓国社会の同調圧力

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー