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虚偽ではなく「もうひとつの事実」であるという釈明

 こういう状態はもはや「フェイクニュース問題」とは言えない。なぜなら「フェイクかどうか」を判断する基準がもはや存在しないからだ。だからフェイクニュース問題ではなく、オルトファクト(Alternative Fact)という単語の方が適しているかもしれない。

 オルトファクトは、最適な日本語訳がないが、「もうひとつの事実」というような意味だ。代替的事実、と訳しているメディアもある。どちらにしても、あまり据わりが良くない。なので本記事ではオルトファクトと暫定的に記述することにする。

 オルトファクトという言葉はもともと、トランプ政権の大統領顧問であるケリーアン・エリザベス・コンウェイが、テレビ番組で(たぶん苦し紛れに)使ったのが発祥だ。

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 どういう場面だったかというと、ご存知のようにトランプ大統領は就任の時から人気がなく、大統領就任式にはあまり人が集まらなかった。しかしトランプは「そんなことない! たくさん集まっていた! 150万人はいた」と推定25万人という報道を否定し、ショーン・スパイサー報道官も記者会見で「就任式の観衆としては文句なく過去最大だった」と説明した。

 これについてコンウェイがテレビ番組で追及され、「報道陣はスパイサーの発言を虚偽だというが、彼はAlternative Facts(もうひとつの事実)を述べただけだ」と釈明した。

 この放送が話題を呼んで、あっという間にインターネットで拡散。その辺りの様子は、ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版の「トランプ政権の『事実』と『代替的事実』」という記事に紹介され、Alternative(もうひとつの)という単語の使い方についてもわかりやすく解説されている。

©iStock.com

「オルトファクト」に対抗する方法は?

 コンウェイの発言から始まったこの言葉はSNSで揶揄的に拡散されたのだが、しかしオルトファクトという言葉は意外にも今の状況を的確に説明しているように思えるのだ。

 オルトファクトを揶揄的ではなく、今のメディアの状況に沿った形で定義すれば、こういうことになるだろう。言えば、「依拠している党派や立ち位置によって、何が事実かが異なってしまう状況」。

 このオルトファクトの先に、どういう未来が待ち受けているのだろうか。フェイクニュースに対抗するためにはファクトチェックが必要だとも言われたが、オルトファクトにファクトチェックが対抗するのは難しい。そもそもファクトチェックの基準が党派によって変わってしまうからだ。しかしいまのところ、他の対抗策は誰も思いついていない。

 そもそも「対抗策」という言葉自体が、矛盾を孕んでいる。なぜなら「フェイクニュースに対抗する」と主張した瞬間に、「あなたの方がフェイクではないか」と言われてしまうからだ。

 このようなカフカ的状況をどう打破するのか。たいへんな時代がやってきたものである。