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【広島】「甲子園の悲劇」があったからこそ「七夕の奇跡」は起こった

文春野球コラム ペナントレース2017

2017/07/18

祈るファンのもとにあらわれた彦星様

 そして七夕がやってきた。先発の戸田降矢は、昨年7月以来の一軍のマウンドだった。昨年の同じ月、見事完封完投勝利を達成した期待のイケメン若手左腕は、期待とは裏腹に5回8安打7失点、1−7でマウンドをおりた。7回に好調の菊丸コンビで2点を返すものの、裏にはさらなる追加点を許し、3−8の5点ビハインドで最終回を迎えることになる。

 初めて9回に登場した小川泰弘にヤクルトファンが沸く神宮球場に、負けないくらいに諦めない歓声が飛び交った。1人目のバティスタがホームランを打つと、さらにその声援は増していった。2人目田中広輔はファーストゴロで1アウト。3人目菊池涼介からはまたホームランが出た、5−8。丸佳浩は7球粘りフォアボール。四番の鈴木誠也はセンターフライで2アウト、9回2アウトでも諦めない経験はじゅうぶんに積んできた。この日それまで3安打の松山竜平がタイムリーヒットで6−8。物怖じしない若鯉、西川龍馬の執念の内野安打で、1・3塁、舞台は整った。

 晴れ晴れとした2017年の七夕の夜、祈るカープ女子達のもとには、7号目の本塁打でゲームをひっくり返す彦星様があらわれてくれた。今季28回目の逆転勝利。彦星様こと新井貴浩は、昨年2000本安打・300本塁打を達成した得意の神宮球場で、また皆の記憶に残る歴史をつくったのだ。

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 ヒーローインタビューで彦星様はこう言った。「正直、まわってくるんじゃないかと予感がしてました」。あの日、自分達がやられたからこそ、できると思った逆転勝利へのリアルなイメージ。あの日の大きな1敗が、大きな1勝を生み出した。失敗は成功のもと、かの有名なことわざをここぞとばかりに体感しながら、身体中のサブイボはしばらくおさまることはなかった。

7月7日、9回に代打で登場して逆転3ランを放った新井貴浩 ©共同通信社

 でも、来年の短冊にはこう書こう。

「今年こそは、どうかカープに左腕が育ちますように(願わくば、先発・リリーフどちらも)」 と。

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイトhttp://bunshun.jp/articles/3374でHITボタンを押してください。

【広島】「甲子園の悲劇」があったからこそ「七夕の奇跡」は起こった

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