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【野球メシ】広島・若手選手を育てる“大野メシ”を食べに行ってみた

文春野球コラム ペナントレース2017

2017/05/07

 ♪マリーンルージュで~愛さ~れて 大黒埠頭で~虹を見て♪

 こんなに浮かれていた4月末は遠い昔の事のよう。おととい、そして昨日の歴史的逆転負けのことはまだ気持ちの整理がついていない……。夢のような1日、そして夢だと思いたい2日間。それこそが野球、そう言い聞かせるしか無い、そんな気持ちで今わたしはGWの最後の日を迎えている。

「大野メシツアー」を知っていますか?

 アオイ空、白い雲、輝く太陽。横浜の船の上でうかれていたのは、鯉のぼりの季節・GW前には首位をキープしていたカープファンである。

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 4月25日からの巨人との首位攻防戦で2勝1敗、見事勝ち越しを決めた。完投勝利を継続中のエースにこそ負けてしまったが、2戦目は今季一軍初昇格の「ジャイアンツキラー」福井優也投手、3戦目には大瀬良大地投手が約2年ぶりに先発として勝利と、一軍・二軍の"全員野球"で先発不足のピンチを乗り越えた。

 その翌日の4月28日、喜びの余韻につつまれながら、とある船上パーティーが横浜の海の上で開催された。その名も「大野メシツアー横浜」。

 今季のカープは春先から故障者が多く、いつどこで二軍選手にチャンスが回ってくるか分からない状況である。そんな時いつでも上がれるように、準備をしている選手たちが暮らすのが広島県は廿日市市、宮島さんを正面に見据える大野寮。そこで若い選手たちが毎日実際に食べている料理を、ファンが食べられるという贅沢なツアーである。横浜は山下公園から出航する豪華客船マリーンルージュの上で。しかも、カープOBの横山竜士さんと廣瀬純 さんのトークショー&記念撮影つき。

 大野の海ではなく、横浜の海の上での「大野メシ」を求め、倍率10倍を勝ち上がった幸運なカープファン100名が集まった。

総カロリー2500kcal これが大野メシだ!

©大井智保子

 こちらが2000kcalはあるという豪華な「大野メシ」。お弁当箱にはぎっしりおかずだけが詰め込まれ、ご飯メニューは別になっている。カープ坊やが可愛いコップには、具沢山のスープ。一般の成人男性の1日の摂取カロリーが大体2500kcalくらいという事なので、飲み物も入れるとこの1食で終了である。

<メインメニュー>
ビビンバ丼

<スープ>
地鶏ももとごぼうのスープ~日南風~

<サブメニュー>
宮崎地鶏のチキン南蛮・牛ももの和風ローストビーフ・宮崎産里芋のコロッケ・手羽先チューリップ戸村風・エビチリ・ポテトサラダ・とこぶしのやわらか煮・ねばねばサラダ・白菜キムチ

「すごいおなかいっぱいになったわー。今日は加藤くんじゃけー試合が長くなるじゃろうけー(笑)、ちょうどいいね。」と広島からはるばる来られたご夫婦はとても満足そう。

若鯉の胃袋を支えて32年 大野寮 宮本料理長

 今回の料理を提供してくださったのは、1984年カープ最後の日本一の年に大野寮に入られて以来32年間、食事で選手たちを支えてきた宮本悦夫料理長。“初の仕事はビールかけの手伝いだった”という料理長自ら「普段の昼食メニュー」を再現してくれた。

大野寮で選手たちを支えている宮本悦夫料理長 ©大井智保子

「365日同じ人が食べる」という家庭と変わらない環境だからこそ、日々の工夫と努力を怠らないという。基本はおふくろの味を意識するも、飽きられないように外食で美味しいと思ったものも積極的に食卓に取り入れるなど味の変化は欠かさない。栄養面では野球選手は肉が多くなりがちなので、野菜や良質なたんぱく質をいかに上手に摂れるかが腕の見せ所。今回のメニューにあるビビンバ丼も、野菜をおいしく摂れるようにという気持ちからできたものだ。

 好き嫌いもあれば、最近ではアレルギーのある選手が増えていることもあり、リストを作ってできるだけ個人個人に対応している。今年のルーキー加藤投手本人から「太りやすいから夕飯の肉は鶏肉にしてほしい」と入寮直後に言われ、希望通り別メニューを提供した。ドミニカから来た外国人の育成選手のことも気にかけ、文化の違いにも細かく対応しているそうだ。

 開幕戦などのゲン担ぎが必要な大事な日には、カツ丼にすることもある。「本当はめでたい時には鯛の尾頭付きを出したいけど、骨がついとるのは嫌がるんですよ、めんどくさいゆーて(笑)。骨とか気にせずがっつり食べれるほうが好きみたいですね。カレーもこれまで12種類くらいつくりましたけど、凝ったタイ風カレーなんかは人気が無くて……。ジャガイモたっぷり、お母さんカレーがみんな大好きですね」と話す。

「男ですけどね、母親みたいな気持ちなんですよ。毎日食べるみんなが飽きんようにね、たくさん食べてくれて、活躍してくれることが嬉しいんですよ。長い選手は気持ちも入ります。母性っていうと男なんでおかしいですけどね、どんどん出てきてると思います」

 宮本さんが32年間作り続けているのは、息子を愛し・愛される“おふくろの味”なのである。

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