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将棋ソフト「ポナンザ」開発者が語る「AIにとって人間が邪魔になる日も遠くない」

『人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?』(山本 一成)――著者は語る

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『人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?』(山本一成 著)

 電王戦で佐藤天彦名人を破った将棋ソフト「ポナンザ」の開発者が綴った本書は、文系にも理解できるやさしいAI(人工知能)入門書であり、開発の内幕を明かす貴重なドキュメントでもある。

「現在、様々な業界で『AIをどう取り入れるか』議論されています。しかし、技術の本質をわかっている人は少ないはず。本を書いたのは身近な将棋や囲碁を通して、AIの鍵である“強化学習”や“ディープラーニング”を理解してもらい、AIは我々から仕事を奪う怖いものではないと知って欲しかったからです」

 現在31歳の山本さんが将棋ソフトの開発を始めたのは東大在学中の2007年。将棋部の部室でプログラミングの本を読んだのがキッカケだった。当初はアマ五段の山本さんに惨敗続きだったポナンザだが、2年後には勝利し、13年には史上初めて電王戦でプロ棋士に勝つまでに成長。その過程で山本さんが最も嬉しかったのは勝利ではないという。

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「新戦法の発見です。勝負は確率論で決まる部分もありますが、新戦法は偶然には生まれない。それはポナンザが自律的に賢くなった証拠であり、人間が先入観や定跡にとらわれて見逃していた未知の世界を見つけたということ。新手を発見した棋士に贈られる升田幸三賞を今年は千田翔太六段が受けたのですが、彼の研究はポナンザの指し手を体系化したものでした。千田六段が賞金をコンピュータ将棋協会に寄付したことが象徴的ですが、今後は棋士とAIが協力して将棋の世界を広げていくはずです」

著者の山本一成さん

 名人を倒したポナンザだが、3連覇をかけた世界コンピュータ将棋選手権で優勝を逃した。王座奪還を目指すのか。

「名人に勝利し、『プロ棋士よりAIが強い』という新しい常識を世間に広めることに成功したので、将棋に執着するつもりはありません。ただし、今春ディープラーニングをポナンザに導入したので、今後飛躍的に強くなりますよ」

 ディープラーニングとは人の神経系を模した多層構造の学習形態のこと。世界最強の囲碁棋士を破ったグーグルのアルファ碁が採用している技術だ。

「最終目標はAIがプログラムをする人間を必要としなくなることです。現時点ではどう将来の局面を予想するかという方針を僕が書いていますが、それを基に1兆に近い局面を調べたポナンザが『何を学習しているのか』は僕にもわからない。自律し始めたAIにとって人間が邪魔になる日も遠くないかもしれません」

将棋ソフト「ポナンザ」開発者が語る「AIにとって人間が邪魔になる日も遠くない」<br />

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