6月21日に、公式戦連勝記録を「28」に伸ばし、30年ぶりに歴代最多連勝記録タイ、そしてついに26日には「29連勝」、歴代単独1位の偉業を達成した史上最年少棋士・藤井聡太四段(14)。この連勝街道の5戦目に敗戦を喫した北浜健介八段(41)は、この快進撃を「モンスター級の進化」と表現する。敗れてこそ感じた21世紀生まれのスター棋士が見せる「進化し続ける強さ」とは。大阪の「関西将棋会館」で語ってもらった。

将棋の竜王戦決勝トーナメントで増田康宏四段(右)を相手に、公式戦29連勝に挑む藤井聡太四段 ©共同通信社

ちょっと常識では考えられない「解く力」

――もはや藤井四段の活躍は社会現象ですね。

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北浜 つい先日も、将棋を指さない知り合いに言われたんですよ、「あの将棋の藤井くんって凄いんですね」って。「もう負けたんですよ、私(笑)」って返事をしたら、「あっ、失礼しました」って恐縮されてしまったんですが。

北浜健介八段 2月23日に藤井四段に敗れた

――四段に昇段してプロになる前から、藤井さんの評判は高かったんですか?

北浜 もともと能力の片鱗を見せていたのは詰将棋なんです。彼は小3の時から「詰将棋解答選手権」に出場していたんですが、半分くらい解いちゃって、みんな驚いてたんです。

――それはどう凄いんでしょうか?

北浜 詰将棋って、小学生で5手詰、7手詰が正解できたらなかなかすごいね、というレベルでして、9手詰が解けたら「すごいねー!」なんですよ。ところが、藤井四段は小1の時に20手台の詰将棋の問題を解いていたらしく、ちょっと常識では考えられない「解く力」を備えていたようです。ですから大人も解けない問題が並ぶ「選手権」で半分正解したというのは、彼にしてみれば実力のうちであるし、将棋の世界で言えば驚異的なことなんです。藤井四段はこの3月にも「選手権」で優勝して3連覇中です。

――北浜さんは詰将棋が得意な棋士のお一人ですが、詰将棋に才能があるということは、対局という実戦でどう活きてくるものなのでしょうか?

北浜 詰将棋は難しい局面を打開するためのスタミナをつけるトレーニングになるんです。それが実戦では終盤力として活きてくるんですね。藤井四段の場合、そうした思考の筋肉が相当鍛えられていますから、筋を読む、考えることに全く苦痛を感じないところまで到達していると思います。

指しながら「フツーに強いな」と思った

――では2月に対局することになった時は、事前に藤井対策というか、かなり構えて臨まれたのではないですか?

北浜 いえ、私が藤井四段と当たったのはNHK杯の予選トーナメントの2回戦でして、私はとにかく初戦に集中していたんです。そこを勝たなければ意味がないですから。勝ち進めば藤井さんと当たるかも、とは思っていましたが、意識することはそれほどなかったし、準備する間も無く対局になったので、まあ、普通に臨むことになったんです。

 

――相手が注目の14歳で、気負うところはありませんでしたか?

北浜 うーん、それがなかったんですよ。昔だったら、「世間が注目してる最年少棋士を負かしてやる」みたいな気合があったと思うんですが、そうとんがることもなくてですね。何というか、自分で年取ったなあ……って思いました(笑)。

――年取った、というのは……。

北浜 大山(康晴・15世名人)先生が中原(誠・16世名人)先生と当たった時に「自分の息子ほどの若者に対して闘志が沸かなかった」という話があるんです。さらに、その中原先生も20歳くらい年の離れた相手と当たった時に「闘志が湧かなくて困った」という話をよくされる。私の場合はそこまで深く考えることもなかったのですが、そんなことが頭をよぎった感じがします。

藤井聡太四段 ©時事通信社

――対局での戦いの流れの中で感じた、この14歳の「異様さ」みたいなものはあったんでしょうか?

北浜 NHK杯というのは、通常の持ち時間が各6時間なのに対して、各20分という「早指し」対局なんです。ですから、じっくり考えながら指すことはできないのですが、そんな中でも「フツーに強いな」って感じたんですよ。

――「フツー」ですか?

北浜 将棋の世界では指してみて「あ、大したことないな」と思ったら自分と同じくらいで、「ちょっと強いな」くらいに感じたら、それは自分より相当強い、というものなんです。だから、「フツーに強い」と直感したときにはもう「相当強い」と覚悟はしてたと思います。