「究極に近いスタイル」と言える理由
――指し手や筋が似ている棋士はいないんですか?
北浜 いないですね。特徴がないんです。攻めも守りもできる自在さが凄みをましているというか。羽生三冠も攻めも受けもない、その時々の「最善手」に適った戦い方をされますが、そういう究極に近いスタイルですね。
――では弱点など見えそうにもない感じですか。
北浜 穴が見つからないですね、今のところは。少しでもありそうなら、ここまで評価が高くなりません。今後、大局観がどう備わっていくのか、楽しみなくらいです。
――最近では、たとえば『3月のライオン』といった漫画や映画もあって、将棋ファンになる人も増えていますが、ここに来ての「藤井フィーバー」に将棋界はどんなムードなんですか?
北浜 『3月のライオン』の主人公、桐山零は作中で「史上5人目の中学生プロ棋士」という設定ですけど、まさに現実世界に現れた「史上5人目の中学生プロ棋士」藤井四段は、非公式戦であれ羽生三冠にも勝ってしまった。もう、漫画なら一回ここで負けるでしょ、ってところだと思うんですけど、そんな展開までリアルに達成してしまってるんです。そんな怪物級の存在に対して、もちろん棋士の一人一人は当たったら勝ちたい、と思うのは当然ですが、将棋界全体としては偉業を達成してほしい、いろんな記録を塗り替えてほしいという期待があると思います。
――タイトルについても相当期待が高まっていると思います。
北浜 中学生でプロデビューした棋士は、名人か竜王のどちらかを獲られています。羽生、谷川、渡辺然り、そして先日引退した加藤一二三先生も名人を獲られていますし。
“ひふみん”にあって、藤井君にないもの
――「神武以来の天才」“ひふみん”引退のタイミングで、新しい天才が出現したのは不思議な因縁ですね。
北浜 私、加藤先生とは10回くらい当たっているんですけど、あだ名が「重戦車」というくらいですから、とにかく闘志というか迫力が凄いんです。しかも、盤を前に立ちあがられたり、長いネクタイを揺らされたり、加藤先生独特のしぐさがあります。藤井四段にまだ不足しているものをあえて言うなら、加藤先生みたいな「独特の雰囲気づくり」でしょうか(笑)。とてもそういうタイプではありませんが。
――「藤井現象」で北浜さんは何か恩恵に与りましたか?
北浜 ああ、チョコもらいましたよ。
――チョコ?
北浜 「LOOK」っていうチョコレートを藤井さんが対局中に食べていたらしいんです。それを知った不二家から大量に「LOOK」が届いて、そのお裾分けを連盟からもらいました。
――藤井グッズの売れ行きも好調のようですね。
北浜 クリアファイルは手に入るようになったみたいですけど、扇子はまだ生産が追いつかないとか聞きますね。でも、すぐにタイトルを獲るかもしれませんから、今の「四段」と書かれている扇子は、そのうちレアものになるかもしれませんね(笑)。