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14歳に負けたとき、何を思ったか?

――北浜さんは「攻めの将棋」とよく言われますが、この対局を振り返って印象的だったことはありますか?

北浜 私は飛車を真ん中に振る「振り飛車党」で、藤井四段は飛車を動かさないで戦う「居飛車党」なんです。で、局面が進む中で藤井四段が「金」の駒を「玉」とは反対側に寄せてきたんです。「玉のまわりに金銀3枚」という格言があるくらいで、普通は「金」って王様を守る駒なんですけど、そのとき藤井さんは自分の玉から離した。振り飛車と居飛車の対局では、あまり出現しない局面で、「あれ? 何でこの手?」と意外に思ったことは覚えています。いい手かどうか分からないんですけど、私の駒が藤井さん側に侵入できないような、全体的にバランスのとれた陣形にしている印象でした。その後、こちらになかなかチャンスが訪れることなく、押し切られてしまったのですが。

 

――負けが分かった時は、正直、どんな気持ちでしたか?

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北浜 悔しい……というのは、ないといえば嘘になりますけど、先ほど言ったように、とんがった感情は出てこなかったですね。年取ったからこその、淡々とした気持ちというか……(笑)。

――感想戦ではどんなことを話されたんでしょうか。

北浜 まあ藤井四段も「ここで不利になったと思ったんですが……」とか、いつもの感想戦という感じなんですが、彼、落ち着いているので14歳って感じじゃないんですよ。私から見ても、何年もやってる人みたいなんです。同じく中学生プロデビューした渡辺(明)竜王が15~6歳の時、私は対局したことがあるんですが、藤井さんのほうがはるかに落ち着いている印象です。

まるで高速道路を静かに走っている車のような強さ

――今、北浜さんは将棋連盟の奨励会(三段から6級までで構成される新進棋士の養成組織。ここで四段に昇段できればプロ棋士となる)の幹事をされていて、10代の若い子たちも多く見ているそうですが……。

北浜 14歳とか、それよりちょっと上の年齢でも落ち着きのない子はいますよ(笑)。藤井四段だって去年まではこの「奨励会」にいたんですけどね。

28連勝を決めた関西将棋会館。入り口の上が駒の形にデザインされている
――存在感が子どもじゃない感じなんでしょうか。

北浜 そうですね。将棋も全く「子どもの将棋」ではないです。中学生でプロデビューした羽生(善治)三冠も、渡辺竜王も、谷川(浩司)九段も、デビュー当時は荒削りで「将棋が若い」って感じなんです。特に羽生三冠・谷川九段は終盤力の強さで相手をねじ伏せる、どうにかしちゃう、という「能力の高さだけで勝つ」戦い方をしていたんです。序盤、中盤は無頓着というか大らかな指し方で、劣勢に立つことも多い将棋なんですよ。ところが、藤井四段は序盤から正確で隙がない。

――羽生さんよりも凄いところがある印象なんですか?

北浜 うーん、羽生三冠の中学時代がデコボコ道を走る車だとしたら、藤井さんは高速道路を静かに走っている車という感じがします。

――そして北浜さんとの対局後も、さらに強くなっていると。

北浜 もう、どこまで進化するんだろうって感じですよ。モンスター級です(笑)。最初の頃は競り合いながら混戦を抜け出す勝ちパターンだったんですが、最近の藤井四段は危なげなく「快勝」が多い。例えば、20連勝目の澤田真吾六段との対局では、藤井四段が負けてもおかしくない局面があったんですが、同じく澤田六段と戦った28連勝目はスイスイと勝ってしまった。気が付いたら優勢に立っている、そんな横綱相撲でした。