稀代の楽天キラー「カネコチヒロ」

 楽天のペゲーロ、Bsはロメロにマレーロ、文春野球ではロペス課長とニシザワチヒロ。今年のペナントレースを盛り上げているのは間違いなく名前に「ロ」の付く選手達である。成績面でも著しい活躍である事は間違いないが、それ以上にその存在感が何とも素晴らしい。欲しい時に1本が出る、試合の流れを引き寄せる、踏むべきベースを踏み忘れる、挙句にTシャツまでヒット商品にしてしまうなど本当に球場内外で彼らの存在が大きいのだ。

 音楽界でも「ワンオクロック」「アレクサンドロス」と「ロ」の付くバンドが売れている。これはもう「ロ」の時代の到来か。今後数年「ロ」に支配される時代がやってくるのか。「ロを出す(スタメン起用)」「ロを挟む(継投方法)」「ロは災いの元(対戦データ)」。2017年以降日本語すら変わってしまうのかもしれない。

 しかし、Bsにはもう一人。余りに偉大な「ロ」が浮上の契機を虎視眈々と窺っている。楽天ファンが最も嫌いなBsの「ロ」。そう、稀代の楽天キラー「カネコチヒロ」である。

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楽天キラーの金子千尋 ©文藝春秋

金子千尋投手と楽天イーグルスとの因縁

 金子千尋投手と楽天イーグルスとの因縁は2008年の7月26日に始まった。楽天打線を7回無失点に抑えた金子はそこから対楽天戦での快進撃を繰り広げる。「こんな若手に」と違和感を覚える楽天ファンの脳裏に苦手意識を決定付けたのは2010年の開幕戦だろうか。楽天の誇る大エース岩隈久志との稀に見る投手戦。クマ対ネコの投手戦をネコが制したのである。その年金子は最多勝に輝いた。楽天ファンのアレルギー反応をどこ吹く風と楽天戦での勝ち星を重ねる金子、文春野球・楽天担当かみじょうたけし氏の提唱する「Dパワー」も金子の前ではすっかり鳴りを潜めていたのだ。

 しかし、我らが金子も楽天に苦汁をなめさせられた事もある。今思えば「ロ」の付く選手の一人であった「タナカマサヒロ」。田中将大投手の24勝0敗という訳の分からない成績、テレビゲームでしか見た事がないようなこの成績のおかげで、全項目に於いて受賞の基準を満たした金子の沢村賞が手のひらからこぼれ落ちたのだ。あぁ、あれは2013年。ミスターとゴジラが国民栄誉賞を受賞した年の出来事であった。ちなみに沢村賞受賞基準を全項目で満たしておきながら受賞を逃したのは江川卓とダルビッシュ有、そして金子の3人だけである。

 翌2014年はまさに金子の年。念願の沢村賞の受賞、パ・リーグMVP、巨人相手のノーヒットノーラン未遂など記録にも記憶にも残る大活躍であった。2016年も金子は楽天に大変お世話になった。開幕投手として登板するもイマイチ調子の上がらない金子。本調子とは言えない金子に手を差し伸べてくれたのは4月30日に対戦した楽天であった。その年の5月に通算100勝の大台を達成した金子、Dパワーをライバル金子に向けてくれた楽天のおかげと言っても良いだろう。ありがとう楽天。ありがとう楽天ファン。