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郊外に8000万の一戸建て住宅を購入したサラリーマンの末路

 それでも土地の値上がりを信じていた彼は、限界ともいえる6000万円の住宅ローンを組んでこの住宅を手にした。毎月の返済だけでは間に合わないために予定されている退職金もかなりの割合を充当して何とか完済できるレベルの資金計画を策定したのだ。

 それから20数年の時がたった現在、彼の会社は、外資系との競争が激しくなり、リストラの連続。給料は住宅を取得した時からほとんど増えていない。それでも増えるのが子供の教育費。なんとか二人の子供も大学を卒業させることができたとのことであるが、今定年退職を前にしてほとんど貯金はない。

 さらに予定していた退職金も大幅に減らされることは必至とのこと。現在彼が買ったマイホームがあるエリア内の住宅の中古価格は4000万円を下回っている。当初借り入れた6000万円を下回る価値しか残らないマイホームを前に、彼は「もう、何のために住宅を買ったのやらわからなくなってしまった」と嘆く。

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 彼の年代の年金支給は65歳から。支給額も現在の多くの高齢者が受給しているレベルには遠く及ばない。生活設計の根本が揺らいでしまったのだ。ほんの二つの世代のわずか十数年の隙間に、マイホームはこれほどまでにその価値観が変容している。

「逃げ切り世代」が亡くなり、「取り残され世代」が“負動産”を引き継ぐ

 いっぽうで、「逃げ切り世代」が亡くなり、残していく住宅は、今後どうなるのだろうか。引き継ぐのは「取り残され世代」だ。

 特に郊外戸建て住宅は、価格が暴落しているだけでなく、すでに流通性すら失っているエリアが続出している。こんな環境下でマイホームを相続してしまうと、税金や住宅管理などの相当額の維持管理費用がかかる。首都圏郊外の住宅用地であれば固定資産税・都市計画税は年間15万円から20万円程度の負担になる。いらないからといって解体更地化してしまえば、税金は住宅用地の特例措置がなくなって何倍にも跳ね上がる。

 賃貸に供することもできず、売却もままならない「負動産」を承継して「取り残され世代」はさらに苦労を背負い込むという構図にある。自分の負債どころか親が残したマイホームが負債化するなんて踏んだり蹴ったりだ。

自分の負債どころか親が残したマイホームが負債化するなんて「取り残され世代」は踏んだり蹴ったり ©iStock.com

 それでも、こうした主張に対しては今でも多くの反論があるだろう。実際にリーマンショックの後に、都心部のタワーマンションなどを購入した人の中には、現在売却すれば多額の含み益を実現できる人も存在する。

 この理由は90年代後半以降急速に進んだ都心居住によって一部のエリアに人口が集中したこと以上に、投資マネーの影響が強くあることに留意すべきだ。投資マネーの恩恵にあずかって値上がりしたことをもってマイホームで財産形成ができるという錯覚が再び頭をもたげだしているだけなのだ。

投資マネーで吊り上げられた価格は常に反動の危険性がある

 しかし、油断は禁物だ。投資マネーで吊り上げられた価格は、同じく投資マネーによって奈落の底に突き落とされる危険を常に併せ持っているからだ。投資はあくまでも「思惑」に左右されて動くもので、マイホームを買って住んでいる人の事情などは一切お構いなしだ。

 マイホーム信仰はもはや迷信の域に入っている。マイホームの値段の上下動に一喜一憂する時代はすでに過ぎ去り、自分がどのくらい「使い倒す」ことができるかという、消耗品の範疇に入ってきているのだ。

 自分が使う家、と考えるならばマイホームはすべて利用価値によって評価される時代になっていくのではないか。

 子供や孫が引き継ぐわけでもないマイホームは、消耗品として自分が生きて使っている期間で最高の価値を生み出すものであると考えれば、自らの人生のステージの中でそれぞれの時代で適合する住宅を気軽に選択すればよいということになる。

 マイホームは買わなければならない、そろそろこの日本人の多くを呪縛している概念を変える時が来ているのだ。