前回の記事では、不動産投資のプロである牧野知弘さんに、なぜ「マイホーム幻想」が日本人の深層心理に深く根付いたか、「地方出身者」をキーワードに解説してもらいました。2020年を迎えようとしている現在、大都市に移住してきた地方出身者は「代替わり」の季節を迎えています。地方出身者の子どもや孫たちは生まれたときから「都会育ち」。土地やマイホームに対する執着は薄れつつあります。『マイホーム価値革命―2022年、「不動産」の常識が変わる』(NHK出版)が話題の牧野さんが、今回は、世代間の断裂の中、マイホームの価値がどのように変質していくかを考察します。

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 平成バブル以前は、マイホームは「それほど高い代物」ではなかった。たとえば現在築40年超の都内や横浜などにあるマンションの多くは当時の分譲価格が1000万円を下回っていた。

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1971年、東横線沿線徒歩5分の新築は800万円で買えた

 私の知り合いが所有する横浜の東横線沿線、駅徒歩5分のマンションは1971年の築。分譲当時の価格は73平方メートルで約800万円。現在の中古流通価格は約2400万円。現状でも簿価の3倍もする。

 平成バブル期には価格は6000万円を軽く超えていたが、このマンションを分譲当時に購入した人にとっては、マンションは依然として「資産」なのだ。しかしこれを平成バブル期に6000万円で取得した人にとっては、明らかに「負債」と呼べるものになりかわっている。

 どうやらバブル期を境としてマイホームの購入は結果として資産形成に寄与した「逃げ切り世代」と、資産のはずが多額の負債に化けてしまった「取り残され世代」に分かれてしまったようだ。

65歳以上は想定通りの退職金、年金、マイホームを手にした勝ち組

 現在、高齢者となった65歳以上の世代の多くは、平成バブル前の昭和時代にマイホームを取得している。この世代は現在もほぼ想定通りの退職金を得て、自らが積み立てた以上の年金を手にすることができている。加えて頑張ってローンを返済したうえで取得したマイホームも、だいぶ老朽化はしたものの「含み益」が生じている。

 この年代の人の価値観の中に、相変わらずマイホームを所有すれば資産、賃貸住宅に住むのは損、という概念が根深いのは自身の「成功体験」が下敷きだ。

 いっぽうの「取り残され世代」は悲惨だ。私の別の知人は、平成バブルの絶頂期とも言えた平成2年に横浜市郊外の一戸建て住宅を買った。自宅から私鉄最寄り駅までバスで10分。そこから横浜駅まで30分ほど。横浜で乗り換えて東京都心にはさらに30分はかかる。

 ドアツウドアで都心の勤務先までは約1時間40分。購入当時の値段は8000万円を超えていた。