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 もっともこの頃はまだ「低俗な異色歌謡」として扱われ、日韓首脳の相互訪問が初めて実現した1983~84年には、放送が自粛されたことさえある。

 ”独島は我らが領土” は80年代後半から話題にならなくなったが、再び注目されたのが1996年。排他的経済水域(EEZ)を巡る竹島の扱いが取りざたされ、韓国国内では政府とメディア挙げての一大「独島守護」キャンペーンが始まった時期にあたる。学校で子供に歌わせるようになったのも、この年からだ。

2012年8月、竹島に上陸した李明博大統領(当時) ©共同通信社

 以来この歌は「独島」のテーマソングとして定着し、世代を超えて広く知られるようになった。

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 したがって1996年生まれのギジョンが ”独島は我らが領土” の替え歌を暗記に使うという設定は、いまの韓国の世相を描写する上でごく自然な選択ともいえる。

カニカマからスノーピークまで

「パラサイト」には、ほかにも日本が絡んだ場面がいくつかある。

 豪邸で飼われている3匹の愛玩犬のうち、”ププ” の主食は日本製のカニかまぼこだ。イヌのエサに人間用の輸入食材を買い与えるのは、富裕層に対する分かりやすいカリカチュアだろう。

日本製品を愛用する大邸宅に住むパク社長夫妻 『パラサイト 半地下の家族』より © 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 日本のアウトドアブランド「スノーピーク」のTシャツや屋外用コンロのパッケージも登場する。IT社長が日本製高級ブランドの愛好家というのも、いかにもそれらしい演出だ。一方で、コンロとつながりが深いグリル用の焼き網がキーアイテムとされる点も見逃せない。

 また豪邸の庭で一人息子ダソンの誕生日パーティを開く際、母親ヨンギョは “鶴翼の陣” の形にテーブルを並べさせる。“鶴翼の陣” とは1592年の文禄の役に際して起こった閑山島海戦で、朝鮮水軍が秀吉軍の船団を撃破した陣形だそうだ。

 “鶴翼の陣” は物語の重要な舞台となる。その背後に何か意図が読み取れるかどうかは、劇場に足を運んで自分の目で確かめるしかないだろう。