第92回アカデミー賞で作品賞・監督賞・脚本賞・国際長編映画賞の4冠に輝いた韓国映画『パラサイト 半地下の家族』。アカデミー賞の歴史において、非英語圏の映画が作品賞を受賞したのは史上初のことだ。韓国映画がカンヌやヴェネツィアなどの国際映画祭で大きな賞をとるようになったのは比較的最近のことで、主に2000年代に入ってからだった。そこからわずか20年ほどでの快挙に、驚いた人も多いだろう。

 かつては、長らく日本がアジア映画を牽引していた時代があった。黒澤明、小津安二郎、溝口健二など、日本映画界が世界に与えた影響は絶大だった。しかし、今では韓国映画の勢いにおされ、日本映画は世界での存在感を失いつつあるようにも感じる。

 この日本と韓国の“差”は一体いつ、どこで生まれてしまったのだろうか。アジア映画研究を専門とする、立教大学の李香鎮(イ・ヒャンジン)教授に、「韓国映画の“急成長”の秘密」について聞いた。

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――この20年ほどで韓国映画が急速に進化している印象があります。その背景には、どんな要因があるのでしょうか。

 「なぜ韓国のコンテンツが世界で評価されるようになったのか」というテーマを語るとき、日本でよく言われるのは「国が金銭的な支援をしているから」という理由ですよね。

――人口が日本の半分以下しかない韓国では、国内市場が小さいため、海外でも“ウケる”コンテンツを作って輸出しないとなかなか稼げない。そのため、国が力を入れてエンタメ産業をサポートしている……という話ですね。

政権の「ブラックリスト」に載っていたポン・ジュノ監督

 ただ、『パラサイト』のポン・ジュノ監督や主演のソン・ガンホなどは、朴槿恵政権時代には「ブラックリスト(※)」に載っていた人たちです。「国が支援したから」という論理でいくと、ではなぜブラックリストに載っていたような人たちが素晴らしい作品を作れたのか、という疑問が出てきますよね。

『パラサイト 半地下の家族』 ©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 もう一つ例を挙げると、同じくブラックリストに載っていたイ・チャンドン監督の『ポエトリー アグネスの詩』という映画があります。当時、彼は制作費を支援してもらおうと、公的機関である韓国映画振興委員会にシナリオを提出していましたが、そこである委員が下した評価はなんと「0点」。結局、全く支援を受けることができませんでした。しかし、完成した映画はカンヌ映画祭で脚本賞を受賞しています。

※ブラックリスト:朴槿恵政権時代(2013~17年)に作られていた、「文化芸術界のブラックリスト」。政府の支援対象から排除することを目的に、政権に批判的な文化人がピックアップされた。ポン・ジュノは李明博政権時代(2008~13年)にも、同様のブラックリストに入っていたことが判明している。