今回の試合は世界新記録
さて、今回の驚異的延長戦記録に鑑み、わが国従来の球界史上に残る延長戦を参考までに左に記してみるならば、大正15年の全国中等学校大会の準決勝に於いて静岡中学対前橋中学が延長19回戦を行い5対4で静中が勝った事は読者の記憶にまだ残っているであろう。この時のバッテリーは、静中が上野、福島、前橋は丸橋、片桐であった。
昭和四年の夏、大阪藤井寺球場に於いて行われた日本選抜中等大会の優勝戦で、松山商業と和歌山中学が1対1のまま延長戦に入り、21回戦を演じて遂に和中の優勝に帰した記録がある。この時のバッテリーは和中が山下、島本、松山は三森、藤堂であった。またこの試合の所要時間は4時間半で、午後1時試合開始、終了が5時半と言うのだから驚くべきものである。
尚、中等学校の試合としては、水戸中学と水戸商業が対校試合を行った際、延々実に26回という記録を出してはいるが、大会としての試合では、25回がまさに延長戦の記録を破ったものである。
その他、大学専門学校の試合記録を調査してみると、大正2年に来朝したスタンフオード大学対慶応の一戦が19回戦を行っており(3A-2で慶応の勝ち、投手は菅瀬)、大正15年7月京大グラウンドに於て行われた全国高専大会の決勝戦で、明大予科と五高がやはり19回戦を演じた結果、4対2で五高が勝っている。
六大学リーグ戦に於ては、昭和2年秋の明立1回戦が17回、3対3の無勝負に終った記録がある。この時のバッテリーは、明大が中村(峰)、中津川、中村(国)に手塚、立教は縄岡、野田であった。
終りに本場米国の例を2、3挙げてみよう。1720年5月1日ブルックリン対ボストンが、26回の大延長戦を行い、遂に1対1の引分に終ったのが最長である。この時の両軍の投手は最後まで完投して大なる賞讃を博しているが、今度の吉田、中田の完投は丁度、これに対比し得るものと言える。また、1728年にセントルイス対シンシナチが17回戦を行って、5対4でシ軍が勝っている。
以上の記録を見るに、そのすべてを通じて、今回の明石対中京の如く、両軍無得点のまま延々実に25回もの延長戦を行っている記録は一つもなく、この意味から今回の試合は世界新記録を出したものである。