昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

新型コロナ 北朝鮮が「感染者ゼロ」と言い張る事情

一将功成りて万骨枯る、その実態は……

2020/03/02

肺炎の症状による死者が目立っているというが……

 結論から言えば、北朝鮮が「ウリ(我々)式社会主義保健制度」と呼ぶ、独特の公衆衛生の概念と、悲惨な医療制度の実態がその背景にある。

 別の脱北者によれば、北朝鮮では中朝国境地帯の都市などで最近、肺炎などの症状による死者が目立っているという。ただ、地方では150~200世帯ごとに設置されている診療所の医師が巡回し、発熱などの症状が出た患者を隔離する措置を取るだけで、感染の有無を確認する検査は行っていないという。

「無償」をうたった北朝鮮の医療制度はとうの昔に崩壊している。病院には抗生剤や治療薬はなく、患者は自分で市場に出かけて調達してこなければならない。過去、北朝鮮を視察した海外の医療関係者によれば、脱脂綿は煮沸して使い回すために茶色くなり、点滴薬を入れるパックはビール瓶で代用していた。もちろん、新型コロナウイルスの感染の有無を調べる検査キットなど地方の病院には存在しない。

平壌の地下鉄では、消毒作業が行われているという ©AFLO

採取した検体を増幅する装備が1カ所にしかない

 こうしたなか、ロシアは北朝鮮に検査キット1500個を寄付した。国際赤十字・赤新月社連盟も同様に検査キットを送る方針だという。

 だが、問題は検査キットだけでは解決しない。北朝鮮関係筋によれば、検査キットで採取した検体を増幅する装備が北朝鮮には1カ所にしかない。200万から300万円ほどするという増幅装備が唯一置かれた場所、それは「1号病院」とも呼ばれる平壌・烽火(ポンファ)診療所だという。

 北朝鮮は階級によって受診できる病院を厳密に分けている。烽火診療所を利用できるのは金正恩朝鮮労働党委員長ら“ロイヤルファミリー”と一部の高級幹部に限られる。その下の中級幹部は「南山病院」や「赤十字病院」、さらにその下の人々は「金萬有記念病院」などといった具合だ。

 増幅機器が烽火診療所にしかないという事実は何を意味するのか。新型コロナウイルスへの感染を防がなければならない対象は、最高指導者である金正恩氏と、正恩氏と接触する可能性がある高級幹部に限られるということだ。実際、金正恩氏の動静を伝える報道はめっきり減った。