世界中を震撼させている新型コロナウイルス。北朝鮮もご多分に漏れず、非常事態だ。

 朝鮮中央通信は2月29日、金正恩朝鮮労働党委員長が新型コロナウイルスについて「国家防疫体制のなかでは、いかなる例外も許してはならない」と指摘し、非常防疫事業に関する中央の指揮と統制に国のすべての部門が無条件で絶対服従するよう求めたと伝えた。最高指導者自らが、新型コロナウイルスに強烈な危機感を抱いていることが伝わってくる報道だった。

朝鮮中央通信が2月29日に配信した、朝鮮労働党中央委員会政治局拡大会議にて発言する金正恩氏の写真

 また、北朝鮮ウエブサイト「朝鮮の今日」は2月27日、北朝鮮の学校の冬休みが延長されたと伝えた。別のサイト「ネナラ」は2月24日、全国で380余人の外国人を隔離したと報じた。

ADVERTISEMENT

市場の食糧価格も上がり始めている

 脱北者が平壌から得た情報によれば、平壌市は封鎖され、地方住民は労働党幹部も含めて市内に入れない状態が続いている。地方は郡単位で封鎖されたほか、新義州や恵山、満浦など中朝国境地帯の都市は、約30世帯ごとに構成される「人民班」単位で外部との接触を禁じているという。物流が止まっているため、主に中国からの輸入に頼る食用油や砂糖、小麦粉などを中心に市場の食糧価格も上がり始めているそうだ。

 ここまで大騒ぎしているなか、北朝鮮が公式に発表した感染者数は3月1日現在で「ゼロ」のままだ。同日現在で、お隣の韓国が3736人、日本がクルーズ船も含めて900人以上の感染者を出していることに比べ、あまりにかけ離れた数値だ。

 北朝鮮が中国との国境を封鎖し、国家非常防疫体系に転換したのは1月末。確かに早い出足だったが、中国で初めての感染が確認されてから約50日が経っており、完全に感染を防いだとは言えない状況だろう。

「北朝鮮では感染者が発生している可能性がある」

 関係国もいぶかしい目で北朝鮮を眺めている。日米韓関係筋によれば、韓国の康京和外相は2月15日、ドイツ・ミュンヘンでの日米韓外相会談で、新型コロナウイルスの感染拡大について「北朝鮮では感染者が発生している可能性がある」と述べた。

 なぜ、北朝鮮は「感染者ゼロ」という発表を続けているのか。

ドイツで行われた日米間外相会談 ©AFLO