上野由岐子を新たなステージに押し上げたフォーム修正
鴻江スポーツアカデミーで長年トレーニングしているアスリートの中に、ソフトボール女子日本代表の上野由岐子がいる。鴻江氏との出会いは金メダルを獲得した北京五輪の直前。その頃、上野はMAX121キロの女子世界最速を誇る速球が武器だったことは有名だ。しかしその裏で、上野がギックリ腰を頻繁に起こすようになっていたことはあまり知られていない。鴻江氏の著書「あなたは、うで体?あし体? 3秒で体がわかる、人生が変わる」(集英社)によると「上野投手は『うで体』の体なのに『あし体』の投げ方になっていた」とある。
北京五輪には、鴻江氏も個人トレーナーとして帯同し、固いマウンドであし体のフォームに戻るのを修正しながら、あの413球の熱投が生まれた。実は北京五輪では、上野の速球は110キロ前後で、最も打者が差し込まれていた球は109キロ程度だったという。ストイックに追い込んで体の無理を押してでも体に叩き込んだそのフォームからの解放が、今なお第一線で活躍する上野を新たなステージに押し上げた、と言えるエピソードだ。
鴻江スポーツアカデミーの自主トレには、巨人軍から、宮國、高田萌生も参加している。
高田もフォームが変化していた。それまでの高田といえば、松坂大輔に憧れ、全盛期の松坂の生き写しのようなフォームがおなじみだった。足を真っ直ぐに上げ、じっくりと軸足に体重を溜めてから、体の開きを抑えながら投げ込む、オーソドックスなオーバースロー。しかし今季は、足を勢いよく上げ、その勢いに任せて並進運動がはじまり、ややもするとインステップ気味な、荒々しさすら感じさせるフォームになっていた。ストレートには迫力があり、スラッターは鋭く落ちていた。
このフォームのデザインも、鴻江氏によるものと思えば、なるほど、である。鴻江氏によれば、選手の体を見た瞬間に、理想のフォームが見えてくる、らしい。参加した選手たちも「鴻江先生には何が見えてるんだ」と驚きを隠せない、と口をそろえるという。
インステップは、ボールにうまく力が伝わらないばかりか、コントロールもしづらく、肩肘への負担が大きく故障の原因にもなるから、と真っ先に矯正されるフォームだ。しかし、鴻江氏は、選手によっては「もっとインステップしろ!」と指導することもあるという。体の構造は人によって違い、適正なフォームもその人の数だけ存在し、一つのセオリーには当てはめる事はできない、というのが鴻江流だ。
菅野と高田、鴻江流の自主トレで覚醒した投手たち、ペナントレースでの活躍が早くも楽しみだ。
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