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妊娠中の妻に「太った女は醜い」目黒女児虐待死事件の背景にDVという名の「支配」

獄中手記『結愛へ』を読んで

2020/03/05
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「ママももうあなたを助けられない」

 説教ばかりではなく、暴力も日常にあった。ある日、夫が子の腹を蹴り上げる。当然、妻は子をかばうのだが、夫は「結愛をかばう意味がわからない。お前が泣いている意味がわからない」「結愛が悪いんだ。結愛を直さなくちゃいけない」といって妻をも責め立てる。そうして、やり込められた妻はこう思うのだった。

「ママももうあなたを助けられない。パパの方が正しいんだよ」。

 ひとがひとを虐待によって支配し、支配された者がまた別の者を虐待する。『結愛へ』からうかがえるこの構図に、北九州監禁殺人事件(2002年に発覚)や尼崎事件(2012年に発覚)を想起した者も多かろう。どちらも家族ごと取り込み、財産をまきあげ、被害者となる家族同士で虐待させ合う事件である。

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カルト宗教に共通する、支配・服従の関係が生まれるプロセス

尼崎事件 支配・服従の心理分析
(村山満明・大倉得史編著・現代人文社)

 これらを心理学の見地から解説したものに『尼崎事件 支配・服従の心理分析』(村山満明・大倉得史編著・現代人文社)がある。尼崎事件の公判の情状鑑定をもとにした書籍だ。

 このなかで、北九州の事件を引き合いにしてそこに尼崎事件を重ねつつ、支配・服従の関係が生まれるプロセスがまとめられている。まず甘言と親切に始まり、恩を着せ、やがて「お前が悪い、だから私はこんなことをするんだ」と言っては屈辱を与えたり、暴力を振るったりするようになる。

 そのとき、一定の情緒的なつながりができた相手から責められると、被虐待者はそこに自分の非となる理由を探してしまったり、とりあえず謝らなければと思うようになったりするのだという。そうして被虐待者は自尊心が壊されていき、「殴られて当然の自分」と思うようになっていく。

 これはDVのパターンでもあり、目黒虐待死事件の夫と妻の関係とも重なりあう。『尼崎事件』によれば、こうした支配・服従の過程の中心には「無力化」と「断絶化」がある。被害者が心的外傷を繰り返し受けることで、恐怖と孤立無援感が植え付けられていくのである。またこうした奴隷化するための方策は、家庭内暴力、カルト宗教、強制収容所、刑務所、軍隊等で行われ、どこも似通っているという。

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