「もうおねがいゆるして ゆるしてください おねがいします」。2018年に起きた目黒女児虐待死事件で亡くなった5歳の女児は、170箇所以上の傷やアザを身体に残すとともに、悲痛な言葉を書き残していた。この「反省文」の文字に手を加えた痕があるのは母親が手伝ったからだ。

結愛ちゃんの遺影の前にはたくさんの花束が ©共同通信社

 母親は獄中手記『結愛へ』(小学館)でこう記す。「私も、結愛が彼に怒られないよう、説教が短くなるよう、一緒に反省文を書いたり、直したりした」。彼とは、保護責任者遺棄致死罪などで有罪となる夫(後に離婚)、被害者の女児にとっては義父にあたる。

結愛へ』(小学館)

「結愛には私みたいにつまらない人間になってほしくなかった」

 ここにあるのは、夫から子への虐待だけではない。夫による妻の支配、そして夫の意に沿って子を叱る妻の姿である。

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 夫は「今までしつけもろくにしないで遊んでばかりいたんだ。苦しい思いをしなければ良い子にはなれない」と言って、妻の連れ子に、挨拶や九九、ひらがなの練習や、ひとりでの入浴といった無理を課していく。それを妻がまだ早いなどといって拒むと「なんで?」と執拗に訊いては、答えられずにいると耳を引っ張るなどする。

 またなにか娘が気に入らないことをすると、夫は妻に説教を強いた。「私が結愛を叱らないと、叱っても一言二言で終わらすと、『それだけか? もっと言うことがあるだろ』と怒られる。だから結愛をもっと怒らなければいけなくなる」と手記に記している。

 そうした夫の行状を、妻は「みんな私がバカだから……」と自分に帰結させてしまう。たとえば「結愛には私みたいにデブでブスで、人に利用されて捨てられるつまらない人間になってほしくなかった。彼の言う通り、私みたいに友達が少なくてまわりからバカだと思われ、振り返れば楽しい記憶なんて一つもないような寂しい人生、結愛には絶対に歩ませたくなかった」と綴っているように。

 一度離婚している負い目などもあったろう。そのうえ夫に責め立てられるうち、自尊心を失っていく。