「お客さんのことは、楽天より店舗の方が知っている」
「友の会」の発起人に名を連ねる店舗経営者たちは、楽天ユニオンが主張する「弱者いじめ」は存在しないと口々に言う。だが楽天市場の流通総額が4兆円に迫るほどに巨大化した今、楽天と店舗が創業期のような「幸せな関係」でなくなっているのも事実だろう。送料無料化を支持する「友の会」には現時点で102店舗が賛同しており、年内に5000店舗の加盟を目指すという。
「楽天市場で買い物をしているお客さんのことは、楽天より店舗の方が知っている」(「京都 きもの京小町」村井洋仁)
客を熟知する店舗の生の声を三木谷に伝え、店舗と楽天の「幸せな関係」を取り戻すのが「友の会」の最終的な目標だろう。
今も伝説として語り継がれる「熱海会談」
1964年7月、熱海ニューフジヤホテルで行われた松下電器産業(現パナソニック)の全国販売会社代理店社長懇談会は、「販売の神様」松下幸之助が真骨頂を発揮した場面であり、今も伝説として語り継がれる「熱海会談」だ。
東京五輪が開かれた1964年、日本経済は高度成長の反動で不況に陥り、「三種の神器」と言われたテレビ、冷蔵庫、洗濯機がパタリと売れなくなった。危機を察知した幸之助は、全国の販売会社や代理店の社長、約170人を熱海に集めた。
「売上や利益をしっかり認識し、経営者としての責任を自覚しなさい。松下電器に頼らず、自分で経営の策を考え、決断を下しなさい」
幸之助は自らの信念を説いたが、販売会社・代理店は「松下が悪い」と不満を隠さない。合意点が見出せず、会談はついに3日目に突入した。その日の午前、幸之助は突然、翻意した。
「この30年間、皆様方には非常に努力をしていただきました。それにもかかわらず、私どもは、ものの見方、行き方を誤りました。共存共栄の心を説きながら、それを忘れてしまい、経営悪化を招きました。きょうから松下電器は生まれ変わります。松下電器全社員を挙げて、皆様方のご意見を聞き、真剣に対応をいたします」
ポケットからハンカチを出して、涙を拭う幸之助。この瞬間、販売店・代理店との間に鉄の結束が生まれた。
成長鈍化の懸念が出てきた今の楽天は、1964年の松下電器とよく似た状況にある。2月28日のテレビ会議は、楽天版の「熱海会談」かもしれない。この逆境で5万店の店舗の心をつかめるか。三木谷の正念場である。
(文中一部敬称略)