陣内智則との違いはツッコミにあった
ひとり芸では舞台に上がるのが1人しかいないため、2人以上の芸人が演じる漫才やコントと比べて展開が地味で単調になりやすい。しかも、『R-1ぐらんぷり』の決勝のネタ時間は3分しかないため、じっくり時間をかけて空気を作っていくということができない。
そこで、出場する芸人はさまざまな工夫をすることになる。例えば、絵や文字が書かれたフリップを使ったり、音楽や映像を使ったりする。それらの要素を取り入れることで、ひとり芸でも幅広い表現が可能になる。
野田のゲームネタでは、ゲームの様子を映し出すモニターとゲーム機が小道具として使われている。つまり、小道具が少し珍しいだけで、ひとり芸としてそれほど特別な形ではない。
このネタではゲーム自体がボケになっている。それに対してプレイヤーの野田がツッコミを担当している。映像や音声のボケに芸人側がツッコむネタは、例えば陣内智則が得意とするものだ。野田のゲームネタがあまりネタっぽく見えないのは、野田が陣内ほどツッコミ気質の人間ではないため、ゲームと一緒にツッコミ側もふざけているように感じられるからだろう。演じる芸人によってネタの印象も変わるのだ。
芸人にとって“無観客”は意外と日常
今回の『R-1ぐらんぷり』は、コロナウイルスの影響で無観客で行われることも話題になっていた。これに関して、世間ではどちらかと言うと出場する芸人を心配する声が多かった。
もちろん、やりやすくはないだろうし、観客がいるに越したことはない。だが、一般の人にあまり知られていない事実として、芸人にとって観客がいない状況は決して珍しくはない、というのがある。
普段からライブに出ている芸人の多くは、小さいライブハウスを主戦場にしている。ライブによっては観客が2~3人ということもある。客がほとんどいなかったり、誰も立ち止まって見てくれないような過酷な営業も芸人なら一度や二度は経験している。テレビのオーディションなどでは、会議室のような場所で腕を組んで仏頂面で座っているテレビ制作者を前にしてネタを演じる「ネタ見せ」も行われる。
それぞれ厳しい現場ではあるが、それが芸人の日常なのだ。テレビの生放送で観客がいない状況はやりづらくはあるだろうが、決して特殊な環境ではない。彼らはそれ以上の修羅場を何度もくぐっている。だから、出場する芸人にとってはそれほど影響がないのではないか、と思っていた。