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【公衆衛生の第一人者が緊急寄稿】コロナ来年春まで拡大なら五輪中止の可能性も ロックダウンなど迅速・大胆な対応を《WHO事務局長上級顧問・渋谷健司氏》

終息はずっと先。ワクチン実用化には18カ月以上

2020/04/01
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 世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大する中、今後の見通しについて、公衆衛生や感染症対策の第一人者で、WHO事務局長上級顧問の渋谷健司氏が緊急寄稿した。

渋谷健司氏

“都市封鎖”の英国はまるで“戦時下”のような状態

 イタリアを始め欧州での急速な蔓延を尻目に、3月上旬までの英国の新型コロナウイルス対策は対岸の火事を見るかのごとくのんびりしたものであった。報告感染者数も少なく、首席科学顧問のもとに集まった精鋭の科学者たちによる対応シナリオは完璧のはずだった。死者が10名になった3月12日のボリス・ジョンソン首相の記者会見では、リスクの少ない若者らに自然感染を緩やかに広げていく戦略が披露され、科学的分析に基づき学校閉鎖や大規模イベントの中止はしないと宣言した。

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ボリス・ジョンソン首相はエリザベス女王と電話会談を行った

 しかし、その週末に急遽発表された数理モデルによる分析は大きな衝撃を与えた。政府の方針のままでは、約25万人が死亡し、NHS(国民保健サービス)の受け入れ可能な患者数の少なくとも8倍の患者が殺到する可能性を示した。

 週明けの3月16日、ジョンソン首相は早々に大幅な方針転換を打ち出した。そして、症状のある人は自宅待機、高齢者の外出自粛、イベント中止、学校閉鎖が立て続けに打ち出されると、街から一気に人が消えた。そして、翌週3月23日午後8時30分、ついにジョンソン首相は全国民に向かってロックダウン(都市封鎖)を宣言した。方針転換後の英国はまさに戦時下のような状態となっている。

戦時下”のような状態のロンドン ©AFLO

「検査と隔離」を無視し、パンデミックは起きた

 新型コロナウイルスを含めてパンデミックへの対応は、ほぼやることが決まっている。日本ではなぜか批判の対象となっているWHOだが、過去何十年もの経験に基づいて初期から一貫して同じ方針を訴えてきた。それは、「検査と隔離」である。これはどのようなパンデミックでも大原則で、昔からある地道な公衆衛生的対応に尽きる。そして、各国がそれを無視してきたことこそが、今回のパンデミックの大きな要因の一つである。