多くの人が感動した「いかりや長介の手紙」(デマ)
「志村へ/この手紙をもって俺のコメディアンとしての最後の仕事とする」という書き出しで始まり、いかりや長介がコントへの思いを綿々と語り、さらに志村けんにその遺志を継ぐよう訴えかける。そして「なお、最後に、お笑い芸人でありながら、多数の人を泣かせて旅立ったことを、心より恥じる」で締めくくられる、本物であれば超感動的であり超よくできた手紙です。私も信じかけましたもん。この「手紙」のツイートは3万以上リツイートされ、多くの人がドリフのリーダーであるいかりや長介と志村けんの絆に感動していました。
実際には、こちらは『白い巨塔』というドラマのなかで、死ぬ間際の財前五郎(唐沢寿明)がライバルであった里見脩二(江口洋介)に向けた遺書をオリジナルとし、一時ネットに出回っていたいわゆる“財前コピペ”(この遺書に様々なアレンジを加えた改変もの)の一つ。そのことはすぐさま指摘されていましたが、圧倒的に拡散されていたのは「デマ」のほうでした。
より「泣ける」志村けんにしたくなる
「死」がある種の高揚感を煽り、もっともっと感動したい、泣きたいという欲求を掻き立てる。そのためには故人は「完全無欠の善人」でなければならず、「フライデー襲撃事件の後にビートたけしが干されていた時、たけしとたけし軍団の生活費の面倒を志村けんがみていた」という数年前に当事者自身が否定したデマが再び顔を出し拡散されていくのでしょう。
土曜8時枠をめぐるライバルだったたけしを助ける志村けん、昔はギャラの配分で揉めてたっぽいけど、やっぱりいかりや長介と特別な絆があった志村けん……彼の死後に駆け巡ったこれらのデマは「みんながこうであってほしい」と願う志村けんなのかもしれません。いい話デマが拡散されてしまう背景には、故人をいともたやすく「改変」してしまう私たち、生き残った人間がより「泣ける」志村けんにしたくなる「死の感動利用」があるのではないかと思うのです。