落語家が高座で使う道具はふたつある。一つは扇子、そしてもう一つは手ぬぐいだ。扇子は高座の上で筆や箸、ときに刀となり、手ぬぐいは財布や巾着袋になったりする。特に手ぬぐいは、二つ目以上であれば毎年、自分のデザインのものを作ることができる。
4月中旬、打ち合わせの場所に現れた柳家喬太郎さんは、マスクをつけていた。ご自身の手ぬぐいを活用しての、お手製マスク。このご時世、手ぬぐいはマスクにもなってしまうのである。
そして机の上には、薄手の手帳。1か月の予定を見開きで記すことができるタイプのものだが、遠目から、ほぼすべてのマスに記された予定の上に斜線が記されているのが見えた。
「今月は、この打ち合わせぐらいしか予定がないね」――。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響は社会の広範囲に及び、エンターテインメント界も、ライブなどの興行中止や延期などで苦境に立たされている。
落語もそのひとつで、寄席や独演会の公演中止など、日本中の落語家が芸を披露する場所が奪われている。いち早く外出自粛要請が出された東京では、「定席」と呼ばれる常設の寄席である新宿末広亭、池袋演芸場、鈴本演芸場、浅草演芸ホールが5月6日までの興行を自粛している。先は、なかなか見えない。
「週刊文春」で長年「川柳のらりくらり」を連載する人気落語家・柳家喬太郎さんもその一人。3月中旬以降、ゴールデンウィークまで、予定されていたすべての公演がキャンセルとなっている、という。
一方、落語ファンをはじめ、人々の自宅での“巣ごもり”生活は長期に及んでおり、日常にあふれていたはずの笑いに直接触れる場が少なくなってきている。
ならば、ということで、喬太郎さんが今回取り組むのが、落語のオンラインでのライブ配信だ。自身の独演会では初挑戦となるこの取り組みを決めたのは、「とにかく落語がしたい。そしてお客様に笑いを届けたい」というその一心。公演日が決まったあと、あらためてこんなコメントをいただいた。
「外出自粛が続いておりますが、もて余した時間のひとときを、不要不急の落語でお楽しみいただければ幸いです。のらりくらりとお喋りします。のんべんだらりとお付き合いください」
独演会のライブ配信は、第一回が5月2日土曜日の午後2時、そして第二回が翌5月3日日曜日の午後2時からを予定している。第二回については、紙切師で、喬太郎さんの「週刊文春」の連載「川柳のらりくらり」の挿絵を担当する林家二楽さんもゲストとして登場。二人の特別落語会「落語のらりくらり」として行われる。料金はともに、切りよく1000円(税抜)。
日本人にとって、おそらく初めての“在宅ゴールデンウィーク”が訪れようとしているが、いま最もチケットが入手困難と言われている 柳家喬太郎さんの落語ライブ配信で、日常からちょっと離れた極上の笑いに触れてみてはいかがだろうか。
INFORMATION
イベントチケットは以下で販売中。
5月2日 柳家喬太郎独演会 https://bunshunrakugo1.peatix.com/
5月3日 柳家喬太郎落語会「落語のらりくらり」ゲスト:林家二楽 https://bunshunrakugo2.peatix.com/