〈「中国経済への過度な依存はあまりに危険だ」という議論がここで出てきてしかるべきです。ただそれは、別に「中国が悪い」という話ではありません。グローバル企業が手っ取り早く利益を貪るために、「中国に過度に依存する(中国を“世界の工場”として濫用する)いびつな経済構造が間違っていた」という話です〉
日本はマスクの約8割を中国に依存していた
〈中国との経済関係を強め、「一帯一路」構想の覚書まで調印したイタリアで大きな被害が出ているのは象徴的です。(略)中国から多額援助を受けているエチオピア出身のWHO事務局長が、露骨に中国を擁護していますが、こうした方面での中国の影響力も無視できません〉
日本も他人事ではない。
〈日本では、中国に約8割も依存していたマスクの輸出が実質的に止められて、深刻なマスク不足となり、医療現場では大変な事態になりました。インバウンドの観光業も消費も中国頼み。“中国への過度な依存”は大きな問題なのです〉
「静かな京都が戻ってきて良かった」
「今回の新型コロナウイルスで、世の中は大騒ぎになっていますが、いま京都の町は、観光客がいなくなって静かに落ち着いて、多くの住民はほっとしています」という佐伯氏は、次のように語る。
祇園の組合幹部が京都であるインタビューに答えていました。
「不謹慎だと叱られることを覚悟で言いますが、静かな京都が戻ってきて、我々はこれで良かったと思っています」と。(略)
「経済効果がマイナス何兆円」というのは議論しやすいですが、数値化できるものだけを評価するのは間違いです。インバウンドも、大きな流れとしては全否定する必要はない。ただ、あまりに急ぎすぎた。京都も受け入れに20年くらいかけていたら問題はなかったかもしれません〉
〈そもそも考えてみれば、今の静かな京都こそ、我々の生活の本来の姿ではないか。新型ウイルスで「グローバリズム」がストップした現在の方がむしろ“日常=正常な世界”で、「グローバリズム」で絶えず競争圧力にさらされた生活を強いられてきた、この20~30年間の方が、実は“非常時=異常な世界”だったのではないか、とも思うのです〉
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佐伯啓思氏「グローバリズムの『復讐』が始まった」の全文は、「文藝春秋」5月号および「文藝春秋 電子版」に掲載されている。
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グローバリズムの「復讐」が始まった
【文藝春秋 目次】<総力特集>コロナ戦争 日本の英知で「疫病」に打ち克つ/<追悼>志村けん「最後のコメディアン」/五輪延期費用IOCも負担せよ
2020年5月号
2020年4月10日 発売
定価960円(税込)