「PwCは最後の最後で妥協した」
WHや東芝の関係者は「見通しが甘かった」というが、本当にそうか。WHがS&Wを買収した2015年末は、東芝が前の監査法人アーンスト&ヤング(E&Y)にWHの減損処理を厳しく迫られていた時期である。S&Wとの揉め事がE&Yの心証を悪くしていたのは間違いない。それをもみ消すために「毒を喰らわば皿まで」でS&Wを買収したのだとしたら……。
PwCがS&Wにこだわった背景にはこうした事情があったと見られるが、結局、PwCは限定付ながらも「意見」を出した。S&Wの疑念は晴れたのか。そうではないだろう。
「PwCが最後までハンを押さないと、その時点で東芝は上場廃止になり、資金調達の道を断たれて倒産する可能性もある。『倒産の引き金を引いた』と言われたくないPwCが最後の最後で妥協した」(金融関係者)という見方もある。
10日の記者会見で「監査法人と手打ちをしたのか」と問われた平田政善CFOは「手打ちなど一切していない」と気色ばんだが、大人の事情があったのは想像に難くない。
S&W疑惑を脇に置いたとしても、赤字約1兆円、債務超過5529億円は上場企業の決算として「正常」ではない。病人に例えれば心肺停止で「生きているのが不思議」なレベルだ。
この状態を脱するために必要不可欠なのが、2兆円以上の資金調達を見込む東芝メモリの売却だ。東芝は官製ファンドの産業革新機構、米投資ファンドのベイン・キャピタル、韓国半導体大手のSKハイニックスからなる日米韓連合に優先交渉権を与えて話し合いを進めているが、当初、融資に止めるはずだったSKハイニックスが議決権を要求。これに革新機構や背後の経済産業省が難色を示して膠着している。
東芝は万一に備え、東芝メモリの他社へ売却に反対して米国で裁判を起こしている、これまでの同事業のパートナー、米半導体大手のウェスタン・デジタルや、二次入札で最高額を提示した台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業とも交渉を始めた。交渉はまだ入り口の入り口だ。
売却交渉を完了するには、各国独禁当局の承認がいる。この手続きには半年以上かかるとされており、2018年3月末が期限とすると8月末が実質的なデッドラインとなる。東芝経営陣にもその認識はあるようだ。10日の記者会見で綱川社長は言った。
「独禁法のことを考えると容易ではないないが、2018年3月末までに決めるのは可能だと思う」
売却が完了しないことを織り込み始めたとも受け取れる発言だ。とにかく東芝は今月中に売却先を決定し、独禁当局に審査を始めてもらうしかない。東芝の持ち時間は刻一刻と少なくなっている。