今年のゴールデンウィークは、新型コロナウイルスの影響で外出自粛が続く、異様な大型連休になっています。日本で新型コロナの報道が盛んになったのは遡ること2月、横浜港に停泊中の大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」で大規模な集団感染が発生した頃からでした。
ダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に到着したのは2月3日でしたが、実は私も、新型コロナの一件がなければ2月4日から同船に乗って、9日間の旅に出る予定でした。私は元々海事代理士でもあり、船舶の売買にも携わっていました。今回は紙一重で集団感染の現場を免れたわけですが、一連の騒動を見ていて、新型コロナだけでなく、クルーズ船そのものにも大きな注目が集まっていることに、新鮮な驚きがありました。
クルーズ船は“動く不動産”とも呼ばれていて、船舶の売買と不動産の取引には共通点がいくつもあります。そこで、今回は事故物件サイト運営人と海事代理士の両方の立場から、「事故物件×クルーズ船」をテーマにお話をしたいと思います。(全2回の1回目/後編に続く)
公海上で乗客が出産したら、子供の国籍は?
ダイヤモンド・プリンセス号について話題になったものの一つとして、「船籍」が挙げられます。同船はアメリカの運航会社が所有していますが、主な航行区域はアジア、一方で船長はイタリア人でした。しかし、「ダイヤモンド・プリンセス号はどこの国の船?」と聞かれたら、答えは「英国」です。なぜなら、“船の国籍”を示す船籍が、英国に置かれているからです。
では、この船籍はどのような場合に意味を持つのでしょうか。たとえば、公海上を航行中に乗客が出産した場合です。このとき、その子供は船籍国で生まれたとして扱われます。すると、船籍国がアメリカやカナダなどの出生地主義の国であれば、子供は自動的にその国籍を取得することになります。
事故物件の「告知義務」とよく似た問題
ただ、クルーズ船では原則、妊婦の乗船はできません(妊娠初期であれば可能です)。これは法的な制限というよりも、あくまで「各会社が定めているルール上、乗ることができない」という話なのですが、十分な医療体制が整っていないことから、私の知る限りクルーズ船は「妊婦の乗船お断り」のところばかりです。
しかし、それでも妊娠した女性が乗り込んでしまうケースは発生しています。これは、事故物件における「告知義務」とよく似た問題と言えるでしょう。