昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2017/08/14

保育園ができても、土地の資産価値は落ちない

――土地所有者が了承しても、周辺住民で反対の声はないのですか?

保坂 根強い反対運動が5ヶ所でありました。「住宅地の真ん中なので、土地の資産価値が下がる」との不安があったのです。騒音や交通の心配の声もありました。そのため、説明会を10回開くのは珍しくありませんでした。私自身も車座集会で話を聞きました。なかには誤解もありました。街は新しい世代の新陳代謝によって活性化していくわけですから、実際には資産価値は落ちないと思います。

 反対運動が起きる原因を分析しますと、業者が反対運動を想像できず、説明会を開く前に、「保育園できます」と看板を立てていたのです。すると、住民が「聞いていない」となります。一方的に見える場合、反対運動が長期化しました。逆に住民の声を斟酌すれば、長期化しないのです。

――保育園が整備されれば、保育士不足になりませんか?

保坂 名古屋や大阪でも保育士募集の説明会をしています。いわゆる奪い合いはどうしても起きます。保育士に対して区では家賃補助をしています。法人が借りた物件なら、国や都の補助とともに1人当たり8万2000円の8分の7を上限に出します。最初は経験年数5年目まででしたが、今年からは不問にしたのです。

 また、区では給与に1万円加算しました。都からは4万4000円です。これで全産業平均より低かった保育士の給料を底上げしました。今のところ、保育士不足で開けなかった保育園はありません。さらに、保育士に子どもが産まれた際に、保育園に入れることができなくて「待機児童問題で保育士が辞めてしまう」という冗談のような話が実際に起きていました。来年4月から、保育士は優先的に保育園が使えるようにします。

©渋井哲也

――質は保たれるのでしょうか?

保坂 2年前に「世田谷区保育の質ガイドライン」を公表しました。ガイドラインは、専門家らによる委員会で策定しました。保育施設運営事業者の審査項目や巡回指導相談の視点をもとに、「子どもを中心とした保育」を実践するための基本的指針です。保育の質の確保・向上には、保育者だけでなく、保護者、事業者、地域の理解と協力とともに取り組むことが重要です。

 事業者は全国から集まります。仮に、民間事業者で経験の浅い保育士ばかりでトラブルがあったり、混乱した場合は、区のベテラン保育士等を派遣し、現場職員の相談や悩みを直接聞き、一緒に解決しています。また、園庭のない40の認証保育所の場合、近所の認可保育園の園庭を利用する場合もあります。エントリー時だけでなく、常に区が把握する仕組みを作りました。未然防止に力を入れています。厚労大臣には、事故が起きたら検証するチェック機関の設置を要望しています。

――東京都との関係ではどうなのでしょうか?

保坂 1年前、小池百合子都知事になった途端に要望を出しました。小池都知事は首長との対話を始めています。2歳児までの支援は実現していませんが、都有地の活用、認可外保育園への助成金の拡充、保育士への家賃補助は実現しました。小池都知事も緊急のテーマとして取り組みました。その姿勢は評価できます。しかし、昨年秋の緊急保育対策の補正予算が東京都全体で126億円でした。世田谷区の保育予算の3分の1以下ですから、まだまだ規模が違います。

 また2016年11月、「待機児童解消に向けた緊急対策会議」がありました。保育園には、建築基準法上、竣工時の「検査」が求められています。20年前は検査を受けるところが少なかったのですが、検査をクリアしている証明である「検査済証」がないと、保育園の建物として使えませんでした。例えば、駅前でコンビニが抜けたとします。立地がいいのですが、「検査済証」がないために断念したことがあります。

 この件に関して、「検査済証」がなくても保育園の建物として利用できないか、会議の場で提案しました。豊島区長の高野之夫さんも「保坂さんの言う通りだ」と賛同してくれました。当初は「都の問題ではない」と言われました。このことをブログで書いたのですが、結果、都は「検査済証がなくても自治体の判断で転用できる」との通知を出しました。これまでの都は、区の提案や要望を聞き入れることがありませんでした。昔は、区は都の下部機関でしたので、まだその意識が残っているのでしょう。しかし、待機児童のために何でもやるというときに、いい案があったら取り入れてもらわないと困ります。

――保育はどうあるべきでしょうか?

保坂 幼保一元化の議論がありましたが、中途半端なものになりました。幼稚園は「認定こども園」になることが検討されてきましたが、メリットがなく、幼稚園はこども園になりませんでした。もし幼稚園が全面的にこども園になれば違っていたでしょう。保育と幼児教育は全く違うものではありません。保育園でも学びや育ちは保障されなければなりません。

 子育てにお金をかければ、やがて必ず返ってきます。区内では「子どもは邪魔」という意識は減退していると思います。全国的には少子高齢化で先が見えませんが、世田谷区は人口も子どもも増えています。そのまま維持することで、新時代の指針になりうる打開の道を探りたいのです。

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー