東京都世田谷区は保育園の「激戦区」であり、待機児童数も全国ワーストとなっている。区では積極的に保育園を整備しているが、土地や建物が不足しているのが現状だ。そんな中で、世田谷区は独自の取り組みをしている。

 2011年から区長を務めている保坂展人氏(61)に聞いた。

増え続けている年少人口

現在2期目の保坂区長 ©渋井哲也

――世田谷区は待機児童が多いと言われていますが、現状をどう認識していますか?

保坂 待機児童の数え方を統一することを4年前から国に対して要望してきました。横浜市が「待機児童ゼロ宣言」をしたときに、育児休業中の親の子どもは含めないとしました。それに右に倣えで、多くの政令市がその基準にしました。すると見た目上の待機児童の発表数が劇的に減りました。でも、実情は変わっていません。

 私たちには「意図的に待機児童数を少なく見せてはいけない」という信念があり、定義をいじりませんでした。国が「待機児童ゼロ」を言うならば、定義をはっきり示すべきと言ってきました。今年は国の新しい基準が示されました。もちろん、世田谷区に待機児童が多い現状は変わっていません。

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――待機児童が多くなるのはなぜでしょうか?

保坂 10数年前は8万5000人ほどだった世田谷区の14歳以下の年少人口は、今では10万5000人にまで増えました。出生数は年間6000人から8000人になりました。昨年は、亡くなる方よりも生まれる赤ちゃんが1500人ほど多いのです。加えて転入などの社会増があり、保育園の整備を加速させました。

 今年4月現在の待機児童は861人。ただし、実は認可保育園の空き定員は1000人ほどです。整備したことで3歳児以上の保育定員には空きが出た一方で、1歳、2歳までは埋まっています。「3歳の壁」と言われていた問題は、3歳以上の待機児童がいなくなったことでほぼ解消されました。地域によっても違いますが、以前と比べると状況は良くなってきています。入れない人にとっては厳しいですが、先が見えてきました。

――2歳までの待機児童はどうやって改善させるつもりですか?

保坂 どこの自治体でも直営の区立保育園は作らなくなりました。区でも最近は1ヶ所だけ。基本的には、社会福祉法人や学校法人、株式会社などの民間事業者が運営しています。そんな中で、2歳までの保育に特化した小規模保育園の運営に対する助成が薄いのが現状で、厚生労働大臣にも要望しています。また、認可保育園の分園という形で低年齢児向けのところを作ることも考えています。

 いくつか実験的な取り組みも行っています。例えば、成城学園前の駅前では、住友生命保険のビルに2歳児までの低年齢児向け認可保育園(分園)が開設されました。3歳以上の児童は、本園まで駅前からバスで送迎する仕組みです。

――いつまでに待機児童ゼロを目指しますか?

保坂 待機児童は1歳児が516人、2歳児が46人です。年齢によっても違います。小規模保育園を作って認可保育園につなげたい。目標としては2020年4月までにというのがあります。これは今の状況を前提にしたものです。毎年、9000人が妊娠を届け、出生届は8000人。流産の場合もあるでしょうが、現状では「保育園に入れない」という理由で引っ越す場合もあるはずです。保育環境を良くすることで他地域に引っ越す世帯が減り、子育て世代を呼び込むことになります。そうすると、計算通りに行くかは難しくなります。

区内に貼られているポスター ©渋井哲也

――土地はどう探すのでしょうか?

保坂 国有地を長期にわたり借りることで区内9ヶ所の保育園を開設しました。国有地のない地域では駐車場や古いアパートなどを壊して提供してもらっています。

 区では「保育園ができる土地・建物を募集しています」というポスターを作っています。100人定員で1000平方メートルの広さとなる園の場合、土地の賃料が年間1500万円ほどかかるために、区では3分の2を負担することにしています。また、不動産専門調査員を配置し、資産活用のアドバイスをしました。その結果、4月段階で民間の土地・建物を活用して48園が開園しました。8園が準備中です。