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工藤會VS福岡県警 「工藤會は命を取るが、警察は会社を潰す」地元建設業者の言い分

「県警VS暴力団 刑事が見たヤクザの真実」

2020/05/23
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「退職後は気をつけろ」という脅し

 工藤會は、平成10年には「警察との接触禁止」「接触すると破門、絶縁する」と傘下暴力団員に指示徹底した。ただ、現役だったH氏は、以後も工藤會側を代表する最高幹部の一人と非公式に接触を続けていた。平成15年2月、私が捜査第四課の北九州地区担当管理官となる1か月前、工藤會側は、そのH氏と最高幹部との非公式な窓口をも閉鎖した。だが、その後も、工藤會本部や総裁自宅の捜索などで、H氏が野村総裁、田上会長らと顔を合わせた際には挨拶程度の会話は交わしていた。

 H氏は、定年となるまで、その実力を買われて北暴課で情報収集等を担当していた。

 その中で、工藤會を破門・九州所払い処分、すなわち工藤會を追われ、九州から追放された元幹部と、福岡県外で接触して情報収集を行ったことがあった。一対一の会話だから、H氏の発言には、工藤會による数々の凶悪事件を念頭に、トップである野村らに対して批判的なものもあった。

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 ところが、破門になっていたその元幹部は、H氏との会話をこっそりICレコーダーに録音していたのだ。しかも、自分を破門にした野村らにご注進に及んだのである。

 工藤會トップとして北九州に君臨しているつもりの野村には、その発言が許しがたいものだったのだろう。また、工藤會取締りを続ける、福岡県警に対しても大きな牽制になると踏んだと考えられる。つまり「退職後は気をつけろ」という脅しである。

©共同通信社

 H氏襲撃の実行犯は、工藤會田中組幹部・中田好信(当時37)だった。中田の撃った2発の弾丸がH元班長の太もも付近を貫き、瀕死の重傷を与えた。

一方的な怒りによる襲撃

 この事件の翌年発生した看護師殺人未遂事件も、野村がそのプライドを傷つけられたと感じたことから起こった。野村は、看護師が勤務する診療所で自らの局部の増大手術と周辺の脱毛治療を受けた。その手術結果に不満を持った野村は、自分に対し、普通の患者と同じ態度で接した看護師に一方的に怒りを募らせた。そして、直接には何の動機もない工藤會幹部・大石薫らに卑劣な襲撃を行わせたのだ。

 H氏に対する殺人未遂事件と、元漁協組合長の孫にあたる歯科医師に対する殺人未遂事件、この2件の実行犯である中田好信被告の控訴審判決が平成30年7月4日に下された。中田被告は看護師殺人未遂事件では実行犯・大石薫被告の送迎役を務めていた。

 福岡高裁は、中田に懲役30年を言い渡した1審の福岡地裁判決を支持し、控訴を棄却した。1審、2審ともこれらの事件に対する工藤會総裁・野村悟による指揮命令を認定している。

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