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2020/05/30

睨むような視線や冷たい一瞥も

 第34話(5月14日放送)では、裕一の来期契約料を下げられたことに憤慨してコロンブスレコード録音室に飛び込んできた音と出くわす小山田=志村。慌てふためく廿日市を制して「こちらは?」と尋ね、裕一の妻だと知ると瞬時に顔をこわばらせ、また瞬時にやわらかな顔に戻って「いやぁ、構わんよ。帰るところだからね。じゃ、また明日」と出ていく。詫びる廿日市の秘書・杉山(加弥乃)を無視し、録音室を振り返る際の睨むような視線に寒気がした。

二階堂ふみ ©時事通信社

 第35話(5月15日放送)では、ついに裕一と対面。コロンブスレコードのサロンで談笑していた小山田=志村は、専属作曲家でありながら一曲も採用されずに悶々とする裕一に声を掛けられる。尊敬の念を伝え、同社の青レーベル(西洋音楽部門)で曲を書けるようになりたいと所信表明する彼に、冷たい一瞥をくれつつ「赤レーベル(流行歌部門)ではどんな曲を出したのかな? 君は赤レーベル専属の作曲家だよね。うん?」と言い放つさまに身震いした。

連続テレビ小説「エール」より

 第38話(5月20日放送)は、なかでもきわめつけ。作曲家の才能があることを示そうと裕一が書き上げた楽譜を渡される小山田=志村。渾身の交響曲「反逆の詩」の楽譜をまともに読まないうえに批評もせず「……で?」と投げ捨てる、あまりに冷酷な態度に背筋が凍った。

©iStock.com

“笑い”を完全封印した演技

「君は赤レーベル専属の作曲家だよね。うん?」「で?」といった台詞には裕一にひとりよがりを捨てることで作曲家のあり方を悟ってほしいとの想いも込められている気もするが、すべての登場回で“笑い”を完全封印した演技を繰り出すおっかない志村に圧倒された。どれも台詞はわずかながら、その佇まいや表情でコミカルな回やハートウォーミングな回の空気を一変させ、シリアスな回ではより緊張感を横溢させていく力量に唸らされたわけだが、そもそも彼には非凡な演技の才能があったことを思い出した。

『志村けんのだいじょうぶだぁ』に「シリアス無言劇」と呼ばれるコーナーがあった。台詞を一切排除して描かれるのは、さまざまな男女、家族、夫婦、親子に待ち受ける哀しい物語。むりやりなカツラを被っていたりするので笑ってしまいそうなものだが、言葉を用いない渾身演技に毎回ことごとく泣かされていた。「ヒゲダンス」「ウンジャラゲ」「パイのパイのパイ体操」などの体技も活かしたものから「アイーン」やワナワナ震えまくる「ひとみばあさん」まで、志村の“笑い”は動きも大きな要素だったが、それを“泣き”でも活用してしっかりと機能させたことに驚いたものだった。

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