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2020/05/30

高倉健が志村に『鉄道員』出演を依頼した理由

 90年代には高倉健たっての願いで映画『鉄道員(ぽっぽや)』(1999年)に出演。酔って廃坑への怒りをぶつける炭坑夫を切々と演じ、作品に深みを与えると同時に高倉健や小林稔侍ら大物を相手に堂々と渡りあえる俳優であることを証明した。高倉健から志村に直接、出演依頼の留守電が残されていたというから、『志村けんのだいじょうぶだぁ』の「シリアス無言劇」における“泣き”の演技を目にして直々にオファーしたのかもと憶測もしてしまう。いずれにせよ、彼は志村が俳優としても秀でたものを持っていることを見抜いていたのだろう。

『鉄道員(ぽっぽや)』DVD

 以降は俳優の活動はなく、こちらもコント道を貫くのかなと思っていたが、2018年にNHKで『スペシャルコント 志村けん in 探偵佐平60歳』が放送された。コントと銘打たれたもののドラマ仕立てで、志村が演じるのは警察で経理だけを務めてきた“元警官”の木野塚佐平。定年を機に探偵業を始めた彼が何者かに誘拐された金魚を探すという話だが、女房の尻に敷かれる男の惨めさ、娘のような年齢の助手のほうが頭脳明晰というダメ探偵の情けなさを見事に醸し出したペーソスあふれる演技に、コメディアンと俳優の双方で新たな地平を切り開こうとする意気込みを感じた。

「エール」台本は読み込みすぎてボロボロ

 そして「エール」である。撮影初日に携えていた台本は読み込みすぎてボロボロだったという報道(「女性セブン」2020年5月7・14日号)から、どれだけ打ち込んでいたのかが窺えるし、それは演技を見れば明らかだ。この「エール」の後には、山田洋次監督とのタッグ作『キネマの神様』が控えるはずだった。『志村けんのだいじょうぶだぁ』で倍賞千恵子をゲストに迎えて『男はつらいよ』のパロディ・コントを披露したこともあった志村だけに、こちらにも賭けていただろうし山田監督と新しい“なにか”を生み出して見せてくれたはずだ。つくづく悔やまれるし、いまだに泣きそうになる。

©文藝春秋

 これまで見たことない志村を、これからも見たかった。

 本格派の俳優というフェーズに移行していたはずの彼に、僭越ながらエールを送り続けたかった。

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