――ターニングポイントになった生き物との出会いはありましたか?
平坂 思い入れがあるのは、深海魚のバラムツですね。僕は大学院でバラムツ関係の研究をしていたんです。研究の合間に「食レポ」を公開したら予想以上に反響があって、「やっぱりみんな食べる記事は好きなんだな」と確信できました。
――おいしいですか?
平坂 めちゃくちゃ美味しいです。ブリの食感に大トロの脂です。でも、人体では消化できない油脂が含まれているため、食べるとオムツをはかざるを得ない。「5切れまでなら大丈夫」などとも言われますが、体調にもよりますし個人差もあります。僕はバラムツを食べた翌日、ハリネズミを探している最中に、お尻から油分が噴出してビシャビシャになっていました。便意をもよおすこともなかったですね。食品衛生法で販売が禁止されている魚ですが、まさに禁断の味です。
――近年、日本ではいわゆる外来種の増殖が問題になっています。平坂さんは外来生物もたくさん食べていますが、この点についてはどう考えていますか?
平坂 実は僕も、こう見えて深く考えているんです。大学時代を過ごした沖縄は外来魚天国で、そのへんの池や川に南米原産のプレコがたくさんいる。そうした環境で感じていたのが、教育にも問題があるなということです。琵琶湖でブラックバスが増えた。それが外国からの「悪い」生き物が増えて、日本の「良い」生き物を殺してしまうという論調で伝えられます。それも一理あるんだけど、命の重さを画一的に判断していいものか。まずは自分で考えてもらうことが大事だと思うんです。そのためには、生物に興味がない人を減らしたい。これはグルメ本じゃないですけど、人間って「食べる」というテーマが大好き。「食べます!」と言うと、生物に興味がなくても「おっ」って見ちゃう。専門的な議論をしている人は他にもいますが、まずはエンタメ的な入り口から「こんな魚がいるの?」「この生き物なんなの?」と興味を持ってほしいですね。
――外来種の象徴になっているブラックバスは、釣り人の間では「食べないことが常識」になっていますね。
平坂 定着しちゃってますね。ただ、実際には「食べられない魚」ってそんなにいないんですよ。よく「そんな魚、食べられるの?」と聞かれるんですが、逆に毒を持っている魚は、フグにしてもソウシハギにしても、多くはきちんと解明、周知されている。ですから、美味しいか美味しくないかを別にすれば、大体の魚は食べられるんです。
僕が小学生ぐらいのときが、ちょうど第3次バスフィッシングブームでした。コロコロコミックに漫画が連載されていたぐらい。僕が初めてブラックバスを釣ったときに、なぜか親父と「食べてみよう」という話になったんです。家に持ち帰ってフライにして食べてみたらうまかったし、「魚屋さんに並んでいない魚でも食えるんだ」とハッとした。ブラックバスは海の魚から進化したとは聞いていましたが、コイやフナやドジョウとはまったく違う系統の味がした。ブラックバスは分類学的には肉食性のスズキに近く、海水魚の味だったのです。僕が釣りをしていた池の水が澄んでいたこともあって、まったく臭みもなかった。そこで僕は、「美味しい」じゃなくて「面白い!」と目覚めてしまった。「進化や生態が、生き物の味にも影響するんだ」と目から鱗が落ち、すっかり生き物を食べることの虜になっていました。