テレワークの導入を機に“移住”してしまった人がいる。
九州の某空港から車で20分――東京の大手小売業に勤める50代半ばの幹部男性は、数年前に出身地の近くで古民家を購入し、リフォームした。10年後に定年を迎えた後はここで暮らそうと思った。
男性の業務は、主に戦略の立案と社内調整。戦略立案では外部との交渉も多く、社内調整では各部署の担当者と話し、人と会うことが仕事だ。勤める大手小売業の店舗の多くが休業した時、男性は九州に帰った。
「私自身の仕事は続きましたが、外部の人と会えなくなり、テレワーク導入で出社する社員が減った。一時的に九州に帰っても大丈夫だと思ったのです。実際、外部との交渉はテレビ電話でできているし、社内会議もWeb会議で済み、九州にいても仕事ができることが分かりました。何かあれば空港から1時間半で羽田(空港)に着けるし、1カ月過ぎると戻る気がなくなったのです。経営陣に話し、このまま九州で仕事を続けることになりました」(男性)
やってみて分かった、メリットとデメリット
緊急事態宣言の解除後、朝の通勤ラッシュを見ればテレワークを早々に止めた企業は多いと見られる。一方で第2波、第3波を警戒し、当面は出社率を下げたままの企業も少なくない。テレワークを基本とする体制作りに着手した企業も出てきた。
テレワーク導入で不都合な事実も見えてきた。
ある上場メーカーの管理職の男性は社内アンケートを取り、テレワークのメリットとデメリットを聞いた。
メリットは、「通勤時間の節約だけではなく、化粧や身支度の時間も短縮できて効率的」「人に話しかけられないし、電話が鳴らないので集中できる」「家族との時間が増えた」「自分のペースで仕事ができる」等々。
一方のデメリットは、「PC、Wi-Fi、椅子などテレワークの環境を整えるのに費用がかかる」「必要な情報は共有されるが、ちょっとした相談ができない」「ちょっとした情報が入ってこない」。
メリットとして「家族の時間が増える」が挙がったが、デメリットとして「子供に邪魔される」も挙がった。
実務上の制約もデメリットに挙げられた。