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「90年代の風俗店を書くなら店内のBGMは絶対MAX」――燃え殻さん、小説を語る

 ウェブ連載時から、切なく甘酸っぱい「大人の青春小説」として異例の反響を巻き起こしていた話題作が、ついに単行本として刊行された。

 1995年の夏、20代前半で初めて「自分よりも好きな人」に出会ってしまった菓子工場でアルバイトする童貞の“ボク”は、ある日、アルバイト雑誌の文通欄で「犬キャラ」なる筆名を持つ女の子に心惹かれ、きっと小沢健二のアルバム『犬は吠えるがキャラバンは進む』からの命名に違いない――そう確信して手紙を送る。そうして始まった2人の恋の顛末が、バブル時代の狂騒の名残りを背景にリアルな心象風景として描かれていく。

 実は、この青春物語の不器用な主人公“ボク”こそが著者の分身であるという。

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「この小説に書いたのは、多少のアレンジはあるにせよほぼ僕の体験で、その意味では極私的な物語です。なによりも、別れて10数年たってもいまだに僕の中で『思い出』として消化できない自他ともに『ブス』と認めるかつての彼女のこと。小学校のときにいじめにあっていたこと、高校でドロップアウトして専門学校、就職と全てに失敗してきた僕の人生について……。これまで自分のなかに澱のように溜まっていた、隠したいと思っていたことを小説にしたわけで、全裸をさらすような恥ずかしさはあります(笑)。でも、もしかしたら、そんな冴えない日々の中にも『俺もその景色見たことあるよ』と読者が共感してくれる場面もあるのかもしれないとふと思ったんです。かつてラジオのハガキ職人をしていた頃の習性か、『わかる、わかる!』って他人に思ってもらえる一瞬をつい捉えたくなってしまうんです」

 いまや9万5000人以上のフォロワーに支持される「ツイッター職人」として、ユーモアとペーソスが絶妙に絡み合った日々の呟きに注目が集まるが、小説を書こうだなんて考えたこともなかったという。

「作家の樋口毅宏(ひぐちたけひろ)さんに『小説、書いてみなよ』と勧められて、『絶対無理です』『いや、書ける』『書けません!』、そんな問答を重ねるうちにだんだんやらざるを得ない空気になっていったんです。編集者まで紹介してくださって。ある日、『俺、ブスな女の子に振られたことがあるんですけど、その子のこと忘れられないんですよ』ってメールに書いたら『え、なんですかそれ!』って編集者からすごく前のめりな返信が来て……」

 結局、それが端緒となって、本作のウェブ連載が始まった。90年代の東京で、テレビ美術制作という聞き慣れない職に就いた当時の“ボク”と、思いがけずその仕事を20年以上やり続けている43歳の現在の“ボク”。過去と現在という2つの視点からヒロイン“かおり”への思いが描かれていく。第1回のタイトルは「最愛のブスに“友達リクエストが送信されました”」だ。