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【追悼】横田滋さん めぐみさんが姿を消したのは、45歳の誕生日の翌日だった

取材記者が目にした“聡明ではにかみ屋”の素顔

2020/06/06
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“行方不明”の前日にもらっていたプレゼント

 この忌まわしい出来事がなければ、滋さんと早紀江さんのご夫妻は娘の奪還に人生を費やすことなく、平穏な家庭生活を過ごせただろうに、と無念さがいつまでも募る。

 滋さんが話されためぐみさんの思い出の中で印象深いのは、1977年11月14日、45歳の誕生日祝いに「もっとおしゃれに気を遣ってね」と中学1年生のめぐみさんからべっ甲のくしをプレゼントされたという話だ。娘の成長と優しさに触れ、滋さんが幸せをかみしめていた矢先の翌15日、めぐみさんは行方不明になった。いたたまれない。

幼いめぐみさんを抱き、カメラに笑顔を向ける横田滋さん

 父親にとっての娘の可愛さは古今東西、格段のものなのだろう。滋さんはめぐみさんの成長を記録するかのごとく、スナップ写真を撮り続けていた。

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ヘギョンさんと面会した後に見せた笑顔

 横田さんご夫妻を取材していて、滋さんは聡明で頭の回転がとても早い分、時に話が冗長になることもあった。しかし、そこではご夫妻の見事な役割分担があった。そばにいる早紀江さんが短く簡潔にお答えになり、フォローされていた。

 川崎市内の横田さんご夫妻の自宅マンションの集会室で行われる記者会見には、いつも大勢の記者やテレビクルーが詰めかけてきた。

2014年3月、 川崎市内の横田さんご夫妻の自宅マンションで。ヘギョンさんと面会した直後の記者会見で、滋さんの嬉しそうな表情が印象的だった(筆者撮影)

 なかでも、2014年3月にご夫妻がモンゴルで孫のヘギョンさんと初めて面会した後、集会室で行われた記者会見が一番印象に残っている。ヘギョンさんと会い、「行って良かった」「充実した3日間でした」と満面の笑みで嬉しそうに話した滋さんの表情が、今も忘れられない。