都医師会長というお堅い肩書に反した型破りな呼びかけに、お友達申請が、何千も届いた。以降、殺到するメディア取材依頼を「おれは吼え続ける」と受け続けた。なかなか緊急事態宣言を出そうとしない政権に対して業を煮やした尾崎は、記者会見を開いて、都医師会独自の「医療的緊急事態」を宣言する。
一方、医療面での喫緊の課題は病床の確保だった。PCRを進めても重症者への治療が滞らないように、軽症者や無症状の感染者を宿泊用のホテルに入ってもらうスキームを描いた。ここを医師会が仕切って、日々の健康状態を診て症状が悪化したらすぐに病院へ送る。このホテルへの移動によって、感染者を受け入れている病院は一息ついた。
だが、今度はPCR検査を進める策をどうするかだ。これには難題が待ち構えていた。保健所や検査を担う都健康安全研究センターがパンク状態なのだ。クラスターの追跡から病院の手配や電話の受付など多忙を極める保健所はキャパシティーを超えていた。それで、感染者を受け入れているコロナ外来と呼ばれる病院に直接PCR検査の依頼をしてみるが、ここも手いっぱいで断られるケースが続出した。そこで考えたのが、PCRセンターの設置だ。
与党べったりの医師会にもかかわらず……
自治体ごとに医師会が運営するPCRセンターで感染の疑いのある患者の検体を採取して、民間の検査機関と契約して検査をしてもらう。これなら保健所もコロナ外来も通さずに感染者を確定させることができる。
この間、尾崎は何度も官邸や厚労省の壁に突き当たりながら、ときにはテレビで政権批判を繰り広げるなどして乗り越えていく。政権与党たる自民党べったりの医師会のなかで、将来は日本医師会長の呼び声高い尾崎だが、一向に気にする様子はない。
「今やらないで、いつやるの、医療を救うことは都民を救うことにつながるんだ」
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尾崎治夫・東京都医師会長の闘いの詳細は、「文藝春秋」6月号および「文藝春秋 電子版」に掲載の「都医師会長の警告『政治家は現場に来い!』」をお読み下さい。
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都医師会長の警告「政治家は現場に来い!」
【文藝春秋 目次】<総力特集202頁>緊急事態を超えて ウイルスVS.日本人 山中伸弥 橋下 徹/磯田道史「続・感染症の日本史」/WHOはなぜ中国の味方か
2020年6月号
2020年5月9日 発売
定価960円(税込)