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2020/06/13

 バンクシーはキャリアの当初、90年代には故郷の町ブリストルでグラフィティ・ライターをしていた。グラフィティとは、町の壁などでたまに見かける、無断で描かれた文字や絵だ。

 のちに彼はロンドンへ活動拠点を移し、2003年のイラク戦争への反対運動に呼応するなどして活動の幅を広げていく。社会的な問題と直接につながる姿勢を鮮明にし、紛争地域パレスチナ・ベツレヘムへ出向いて、手榴弾の代わりに花束を投げる男の絵を描いたりもした。

©AFLO

 そうした過激な創作活動を重ねることによって、彼はいつしか「アート・テロリスト」との異名までとるようになる。

「やることが派手」なだけではない。注目度が上がるにつれ、ビジュアル表現としての質も高めていったところに、バンクシーの凄みはある。ふつうストリート・アートといえば、スプレー缶塗料を勢いよく壁に吹き付けた荒々しい表現が多いものだが、バンクシーのやり方は違う。

 彼はあらかじめ型紙を用意して、描きたい絵を準備しておく。それを現場に持っていき、型紙の上からスプレーをあてて絵にする。ステンシルという手法である。そうして手の込んだ、見目麗しい絵が短時間で完成するわけだ。

サザビーズのオークションでの「シュレッダー事件」

 バンクシーはキャリアを通じて、着実にアートの世界で地位を確立していく。あるときは大英博物館に侵入して古代壁画に似せた絵を勝手に飾ったりと、物議を醸す作品と発表手法を連発してきたのだが、それくらいの新奇さはアート界ではむしろ歓迎されるフシもあるのだ。「許されるか、許されないか」のラインを見極めることに、バンクシーはひじょうに長けているともいえるだろう。

 バンクシーはいつの時代にも話題に事欠かない。近々だと2018年、サザビーズのオークションで「シュレッダー事件」を巻き起こしたのが記憶に新しい。

 そのときは、彼の代表的なモチーフが描かれた《風船と少女》がオークションにかけられた。ところが同作が約1億5千万円で落札された直後、額縁に仕込まれていたシュレッダーが作動して絵がその場で自動的に裁断されてしまったのだった。

落札直後に裁断されたバンクシー作品 ©AFLO

 これはもちろんバンクシーが事前に仕込んでいたこと。パフォーマンスの一種と考えていい。その出来事が大々的に報じられたことで、切り刻まれた作品の価値は数倍に跳ね上がったといわれている。

 日本で大きな話題になったのは2019年初頭のこと。東京湾岸の防潮扉にネズミの絵が見つかり、バンクシーの作では? と取り沙汰された。

 公共の場へのイタズラ描きなど速やかに消去すべし。いや、世界的アーティストの作品なら守らなければ。そもそも真贋のほどは? 意見百出の事態となるも、結局は小池百合子都知事が「東京への贈り物かも?」などと擁護に回り、都が保護するに至ったのだった。