人が出歩き、集まること自体がためらわれる状況なのだから、これも致し方ないか。
アートに触れる場としての展覧会が、ことごとく中止や延期となっている。
唯一無二の実物というものが存在し、展示会場などしかるべき場所へ赴きさえすれば、本物との邂逅が果たせる……。それがアートのいいところだったはずなのに、現在はアートとの出逢いの場がほとんど奪われてしまったかたちだ。
事態の回復を願うよりほかはないのだけれど、そんな「待ち時間」を少しでも彩らんと、各方面の関係者が新しい「アートとの回路」をつくろうと奔走している。
インターネット上でコレクションや展示が観られるよう取り計らったり、アーティストの言動を映像やテキストで配信したり。いろんな試みがなされるなか、ここに秀逸な取り組みがひとつ。東京六本木に拠点を構えるギャラリーのシュウゴアーツが、自宅で作品鑑賞を楽しめるようにと、「ShugoArts Online Catalogue」を立ち上げているのだ。
オンライン上で鑑賞から購入まで
所属アーティスト14人の作品を掲載した電子版カタログを作成し、ギャラリーホームページ上に、誰でもアクセスできるかたちにして置いているものだ。
カタログの内部を覗いてみれば、トップには今年10月に東京オペラシティアートギャラリーでの個展を控える注目のペインター、千葉正也が紹介されている。掲載しているのは近作の《この音も作品に含まれます。》や《Pork Park #4》。
すっきりとしてシンプルな画面デザインのおかげで、画面から作品がぐっと立ち上がってくるような印象がある。居ながらにして絵の細部までしっかり堪能できるという点では、リアルな展示の場より優っているとさえ言えそう。
アーティストに関連したインタビュー、評論、動画コンテンツなどとカタログのページ上でリンクしているのもありがたい。たとえば千葉正也なら、「制作風景動画」へのリンクが貼ってあり、クリックするとすぐに動画を見られる。視聴すれば、なるほどここに掲げられた作品群がどんな場所で、どのような時間の中から生み出されてきたのか、手に取るようにわかって興味深い。
さらに言えば、ギャラリーとはそもそも作品の売買の場。カタログの各ページには問い合わせ先が載っているので、そこから尋ねれば作品についての質問や、購入の相談にもすぐさま応じてくれる。オンラインカタログをきっかけにアートコレクターの道へ入っていく例でも出てくれば、いかにもご時世柄となるではないか。