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俺たちだけが語り継ぐ伝説の“10.3” あの日、巨人ファンが神宮で観たもの

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/06/19
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ひたすら未来の話をしていた「10.3」の夜

 その日も、同じ1軒目の筈だった。2017年の「10.3」神宮球場。ペナントの行方がとっくに決まった秋口の消化試合は、3球団を渡り歩いたベテラン捕手、相川亮二のさよならゲームであった。

「いやー来年ヨシノブどーよ」「しかしカープ強い」「ヘッドに谷繁とか呼ぶべき。新しい血の導入を!!」なんて口にしながら今年もお疲れーっす、とさながら慰労会気分。

 そんな隙だらけの所にカマされた、心のディレード・スチール。目の前のグラウンド上には「うおー来シーズン、レギュラー獲って給料爆上げしたる!」と、目をギラつかせているヤング・ジャイアンツ達が元気ハツラツ!

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 吉川尚の猛打賞と金の取れる守備。未完の大型左腕・中川の好投、重信の流れる様な美しいベーラン、ずっと見てたい岡本のケツ、〆は慶應BOY山本のグラスラで長玉レンズ抱えた多摩川ギャル熱狂!

 それは、ずっと探していた忘れ物だったのかもしれない。

 その夜、俺たちはひたすら未来の話をしていた。「10.3」のプロ野球ニュースには未だに、プロテクトがかかっている。

©伊賀大介

 歳を重ねるごとにいわゆるひとつの“えのきど理論”がわかってきた様な気がする。そう、現在の自分は結果至上のファンではないって事だ。自分や仕事に夢中だった30代を抜けて、別アングルから長い目でプロ野球を見てみると、勝った負けたは二の次になる。(ここ2、3年死ぬ程悔しかったのは2018年の夏、マツダでマシソンが下水流に喰らったサヨナラ2ラン。あん時はマジ号泣)

 横浜の街が総力を挙げているかの様な、ベイのマネージメント(しかしベイスターズラガーは死ぬほど美味い)、カープの中長期的な育成と最高過ぎるズムスタ、仙台で感じたボールパークという概念の羨ましさ、悔しいが認めるしかないソフトバンクの帝国感などなど、他11球団、何処にも良い選手と、ファンがいる。他チームの美点に気付いてから、再び感じた巨人への愛。

 それは、未来を背負って立つ「現在進行形」のジャイアンツへの愛。

 サノスの指パッチンの様なコロナウイルスにより、街から人が消え、センバツが中止になり、オープン戦は無観客になった。自らの仕事である撮影も全て延期、もしくは無くなった。

 そんな折、村瀬コミッショナーから一通のメール。こちらは観るだけと、高みの見物決め込んでた所への、グラウンドへの誘い(いざない)。もちろん素人のコチラはビビってたじろいだ。なんとか王・助監督的な人事で……と、容赦も頼んでみた。が、俺の中のタイラー・ダーデンが日和ったハートに火を付けた。

「恍惚と不安」。野球が出来る、観られる喜び! しかし、こんな時に野球を?の目線もある。選手、スタッフ、関係者、出入り業者、ファン、今野球に関わる全ての人間がこの思いを持っているだろう。ならばコチラも覚悟を決めねばならない。「顔じゃない」のはもとより承知だ。こちとら青年監督みたいなモンだ。2015年10月の高橋由伸の様に。

 あの日、後楽園ホールのリング上にいた若き格闘王・前田日明の様に。

 てな訳で、エロイカならぬ「トロイカより愛を込めて」。誰も見たことがない、一生語り継がれるシーズン。巨人はもとより、野球の底力、見せましょう。

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