北はなぜ苛立つのか?
今回、北朝鮮が爆破の理由に挙げているのが、脱北者団体が軍事境界線付近で散布した「金正恩氏を非難したビラ」だ。金与正氏は6月4日の談話で、このビラについて韓国を猛非難し、現在も続いている。
南北首脳が2018年4月に合意した板門店宣言には「軍事境界線一帯での宣伝放送やビラ散布などあらゆる敵対行為の中止」という項目が盛り込まれている。この合意を韓国側が守っていないという不満だ。だが、北朝鮮が「最高尊厳(金正恩氏)」への冒涜とみなすビラなどの散布は、2003年頃から続いているもので、板門店宣言後も同様だ。なにも最近始まったものではない。
北朝鮮の怒りは当然ながら、それ以外にある。国連や米国などによる対北経済制裁が継続していることだ。米朝の仲介役を自任する文氏とともに2018年6月に初の米朝首脳会談を行ったのに、その後何の成果も出ていないのは、「韓国側の約束不履行」というわけだ。
いま北朝鮮経済は、制裁により疲弊しきっている。その上、韓国メディアによれば、新型コロナウイルスの影響で中朝国境も封鎖されるなどコロナ対策の余波もあって、平壌市民にも不満が燻っているという。北朝鮮が今、相当困っていることに間違いはなさそうだ。
強烈なメッセージに衝撃
連絡事務所の爆破という“八つ当たり”を受けた文政権の動揺は収まっていない。その後も、対話を呼びかけてきた文氏にとっては“屈辱”以外の何物でもない事態が続いているからだ。特に衝撃を受けているのは、与正氏から発せられるメッセージの強烈さだ。
文氏は2018年2月に韓国で開催された平昌冬季五輪の開幕式に金与正氏を招いた。また韓国大統領府にも招待し、丁重にもてなしもした。金与正氏は、この年に板門店と平壌で行われた南北首脳会談にも姿を見せ、笑顔を振りまいていた姿が、文氏の目にも焼き付いているはずだ。
しかし、連絡事務所が爆破された翌日の6月17日にも、金与正氏は談話を発表した。題して「鉄面皮な口車を聞くと吐き気を催す」。一言で表現すれば文氏への罵詈雑言である。