「こんなもの村上春樹が書いたとしても私は読まない」
この短編を「女による女のためのR-18文学賞」に応募したが一次選考も通過せず、他社に持ち込んでも「こんなもの村上春樹が書いたとしても私は読まない」と門前払いされた――というあけすけな楽屋話もめちゃくちゃ面白いが、それがこんな話題作に化けるのだから世の中わからない。
荒削りだがパワフルな文体で語られるこの突拍子もない恋愛に共感する読者が多かった証拠だろう。
他の4編はすべて書き下ろし。女性から男性の体に変わった幼馴染みとの関係を巡って揺れ動くキュートな青春小説「バースデー」。“もしかぐや姫が地上に恋人を残していたら?”という発想から始まる、種(と性別)を超えたラブストーリー「To the Moon」。未曾有の実験により12人の胎児の母となった研究者のドラマ「幻胎」……。いずれも性と愛がテーマだが、トーンはさまざまだ。
最終話の「エイジ」は、男性側から表題作の世界を描いたスピンオフ。“男は女に喰われるだけだから、学なんていらない。労働に従事して、最低限の娯楽で息抜きして、あとは女に健康な精子を提供して、死んでゆく”という地球上で、15歳の工員エイジは、工場で最年長(27歳)の本好き、芹沢と出会う……。全5編を読み終えると、ある種の切実さが胸に残る。
おのみゆき/1985年生まれ。作家。慶應義塾大学フランス文学専攻卒。著書にエッセイ『傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』、小説『メゾン刻の湯』など。
おおもりのぞみ/1961年高知県生まれ。書評家、翻訳家。訳書にテッド・チャン『息吹』、劉慈欣『三体』(共訳)など。