真中監督に話を聞き続けた今シーズン

 ヤクルト・真中満監督の辞任が決まった。8月22日の試合前の囲み会見で、「来季、もし(チームを)預かったところで、正直勝つ自信はない。そんな中で(続投要請を)受けても失礼」と彼は言った。わずか2年前のセ・リーグ優勝監督の言葉が切なく響く。

 今季初め、定期的に真中監督にインタビューするという連載仕事が舞い込んだ。それは、現役監督に日々の戦いを振り返ってもらいつつ、チーム作りの苦労や秘訣を尋ねるという企画だった。長年のヤクルトファンであり、真中監督とは同学年でもある僕にとって、願ってもないオファーだった。自分と同年齢の男がどのようにチームを率い、どのような思いを抱いているのか、ぜひとも知りたかった。僕は依頼を快諾し、定期的に真中監督に会う日々が始まった。開幕を直前に控えた取材初回のことだった。僕は念のために、彼に告げた。

「長いペナントレース。おそらく、いいときも悪いときもあると思います。ときには、失礼な質問をするかもしれません、ときには、答えづらい質問もあるかもしれません。ひょっとしたら、気に障ることもあるかと思いますが、率直な質問をぶつけさせていただきたいと思っています」

ADVERTISEMENT

 僕の言葉に対して、真中監督は笑顔で応える。

「僕は、そういうのは気にしないタイプなんです。番記者に聞いてもらえればわかると思うけど、たとえ連敗中であったとしても僕は普段通りに接するし、いつも通りに質問には答えますから、全然心配しないで何でも聞いてください。お互いにそれが仕事ですから」

今季限りでの退任を発表した真中満監督 ©文藝春秋

 こうして、彼に定期的に話を聞く連載が始まった。しかし、開幕直後からヤクルトは本当に弱かった。40年近くファンを続けているけれど、ここまで負けたことは記憶にないほど負け続けた。「敗戦」に耐性がついていると思っていた自分が、ここまで落ち込むとは、自分でも想像しないほど圧倒的に負け続けた。

 しかし、当の真中監督は、最初の宣言通りに僕の質問に対して、いつも丁寧に答えてくれた。「7月7日の惨劇」の翌日に話を聞いたときもそうだった。クローザーに転向したばかりの小川泰弘がまさかの6失点。屈辱の逆転負けを喫した翌日でも、淡々と前日の「惨劇」を振り返ってくれた。

「悔しさは、前日に球場を出るまでに忘れる。そして、反省すべき点は反省した上で、気持ちを切り替えて次の試合に臨む」

 真中監督は力強く語った。しかし、「監督生命をかけるぐらいの強い思いで決断した」と語っていた小川のクローザー転向は失敗に終わり、小川は再び先発要員に戻った。退任会見で、「7月にはすでに退任を決断していた」と語っていたけれど、思えばこの「ライアンのクローザー転向失敗」も、退任決断の主因になっていたのかもしれない。