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雨と神戸と巨人軍――今季初の有観客試合に見た夢と現実

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/07/16
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やっぱり悔しいし、悔しいと思える環境が嬉しい

 そしていよいよ、未曾有のシーズンの2回目の開幕だ。選手たちの心情はわからないが、なんだかこっちはフワフワしている。拍手とガチのカメラっ子勢のシャッター音だけが響く中、サンチェスが投げる。見たことがない野球。東京ドームはもちろん、よみうりランドにも口ラッパ&応援歌カマす人達は常にいるので、今までこんなに静かな環境&近くに人が居ない状況が無かった。

 後ろの席にいる、ピンクユニに刺繍がガッツリ入りまくったハヤト・ギャルズたちの会話も全て聴こえるし(しかし皆、俺なんかより全然詳しくてビビる)、投球の間に聴こえるのは鳥たちのさえずり!! 流石、元・グリーンスタジアムだぜ。なんというか物凄いレベルの高いトライアウトみたいだなと思った。

 がしかし。これがいい。

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 物凄い集中して観戦できるし、選手の誰が声出してるかが一発でわかる(両チームで最も印象深かったのはヤクルト青木の声掛け。イニング終わるたびに小川にナイピー、サード村上にも盛んに声を掛けており、リーダー感が半端ない。あぁ……この人多分監督になるわー、と思った)。中溝氏とはイニング間でLINEのやり取りをするか、アイコンタクトとジェスチャーで意思の疎通を計った。ショート坂本の送球が乱れた際に、二人とも脇腹をさするジェスチャーをシンクロしていたのには笑ったが、これも新しいディスタンス・観戦術。

 人間の慣れは凄い。2時間前に「うわー本当に始まったよ歴史的な1日だなやっと野球のある日常だこの球場も最高だしディスタンス気をつけないとな今日ばかりは勝敗なんて関係ない感謝だ感謝」とか村上龍の一筆書き風に思っていたのだが、やっぱエラーやチャンスでのゲッツーなんかを目の前にすると普通にムカツイたり、溜め息が出たりする。

 試合は中盤、LINEで「流れが悪い」と言っていた通りにアッサリ敗戦。やっぱり悔しいし、悔しいと思える環境が嬉しい、という謎の感情も産まれた。帰りの地下鉄では「やっぱ大竹を」「生ウィーラーは嬉しい」など、普段のシーズン中の感じで感想戦をしながら三宮に戻り、再会を約束して中溝氏と別れた。

 風呂から出て、寝巻きに着替えてもまだフワフワしていた。こうして生涯忘れる事の無い、しかしどこか現実感の無い不思議な1日が終わった。

 次に観戦出来た時には、自分は何を感じるのだろう?

 そして、既に他球場で観戦した皆は何を感じているのだろうか?

 そこには「野球」を「プロ野球たらしめているモノ」があるのかもしれないなと思いながら、デイリースポーツを買って早朝の新幹線に乗り込んだのでありました。

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