昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

18.44m離れた2人の思い ファイターズのキャッチャー・石川亮が作るドラマ

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/07/17

 七夕の夜のしらせだった。石川亮選手、1軍に合流。

 なかなか波に乗れないいまの雰囲気に石川亮選手がいたら……と何度も思っていた。「七夕のねがいごとはひとつです」、そんなことはわかっている。それでもあれもこれもと期待せずにはいられない。

石川亮 ©時事通信社

石川亮が語った「2人の思いが重なる瞬間」

 キャッチャー・石川亮選手、高卒7年目を迎えている。2013年ドラフト8位入団、名門・帝京高校出身。同じく帝京高校出身で今年からイーグルス2軍監督、ファイターズにも所属した奈良原浩さんとこんな笑い話をしたことがある。「帝京出身は大きくふたつに分かれる気がするね、盛り上げタイプと寡黙なタイプと。僕や松本(剛)は後者で、もちろん前者は稀哲(現解説者・森本稀哲さん)や杉谷(拳士)ね」、と。

 この会話の時にはまだ入団していなかった石川亮選手もどちらかと言えば盛り上げタイプだろうか。ポジション的にもそうでなくてはならないし、彼からはそのためへの下地も感じる。

 キャッチャーには観察力が必要だとよく聞く。球を受けて返すのは会話のようなもので、それを1試合で何十回も繰り返すためには相手のことはよく知らなければならない。持ち球、フォーム、間の取り方、サインを見る時のくせはもちろんのこと、性格やルーティーン、もっと言えば好きな食べ物や趣味までをも知っておいて損はないとか。味方投手だけではなく、相手打者についても観察が必要だ。

 石川亮選手は高校では1年から正捕手に抜擢されていた。それは名門・帝京高校では初めてのことで、そこから彼は様々な投手を観察し球を受けてきた。先輩の球を受けるのは単純に考えてもお互いに苦労があっただろうし、そのことはきっとプロで役に立っているはずだ。相手を立てながら話し合いが出来る力はここでも培ったんだろうと思う。

 そしてチームを大切にする姿。スタメンじゃない時の彼はベンチでしっかりと試合を見つめ、守備終わりでは真っ先に選手を迎えるために飛び出してくる。これはスタジアムでベンチの上の席から見ているととてもよくわかる、モニターで見ていても一番前にいるからベンチ前に構えているテレビカメラに68番の背中が大写しになることがよくあって嬉しくなる。この姿はとても気持ちがよくて、劣勢なときはファンの目にも切り替えのアクセントとなる。

 石川亮選手に、自分はどんなタイプのキャッチャーかと質問したことがある。すぐに「自分でリードを主導するタイプではないです」と返ってきた、そして続く。

「やっぱりピッチャーが投げたいボールを投げてもらうのが一番なんですよ。例えばキャッチャーがその時に要求したいボールがあったとして、頷いてもらってそれで投げたくないボールを投手が投げたならこちらが構えていた場所にくる確率は下がると思う。だからなるべくはピッチャーがその時に思うボールを投げてもらいたい。ただ、2人の思いがビタッと同じボールに重なる瞬間がたびたびあって、そういう時は絶対に打たれないと僕は思っています」。その話をしている時の石川亮選手はとても楽しそうで少し早口だった。

 18.44m離れている2人の思いが重なる瞬間とそれで抑えた時の興奮は投手と捕手にしかわからないもの。そのことを教えてもらえただけで充分ぞくぞくした。