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おかえり僕の野球、僕のパ・リーグ……ファイターズ開幕戦に見たリアル

文春野球コラム ペナントレース2020

 6月19日に開幕を迎えるなんて特殊な事態に慣れている者は誰もいない。昭和の球界を彩った大物OB評論家に聞いても経験していないことは答えようがなかろう。3月にオープン戦をやって、その後、自粛生活に入り、今月いきなり2週間ほどで仕上げたのだ。梅雨どきのジメジメした開幕戦だ。無観客だ。変則日程、特別ルール&レギュレーションだ。

 僕はずっと大丈夫かなぁと思いながら6月の練習試合を見ていた。なーんとなく野球やってるみたいに見えていた。(無観客のせいもあるだろうが)開幕カウントダウンのテンションが感じられない。試合は基本的に「打高投低」だった。投手は登板感覚を取り戻すためか、短いイニングを順繰りに出てくる。で、甘い球をポンスカ打たれていた。僕は当初、生きた球を久々に見るバッターのほうが断然不利じゃないかなと漠然と考えていた。が、スコアを見るとそうではなかった。どこのチームも派手に打っている。ファイターズ打線も(芸風に似合わず)ホームランを連発していた。これはマシンで打ち込んでいるからバッターのほうが仕上がりが早いのか?

 また野球バカとして自分自身が大丈夫かなぁと思った。開幕を迎える状態がつくれるのか? 例年、キャンプでスイッチが入り、紅白戦や韓国チームとの練習試合などを見てチームの雰囲気をつかみ、スポニチ大会や教育リーグで目慣らしをして、平日オープン戦で編集者から催促のメールを受け取って、言い訳の電話をする。それでこそ魂が入るというものだ。そう来なくっちゃ開幕しない。開幕は魂の爆発だ。なんとなーく野球やってるのをなんとなーく見ても開幕とは呼べない。

 自分は果たして6月19日、ビリビリしびれているのか?

 頭のてっぺんからどかーんと火を噴いているのか?

 開幕前夜はラジオのパ・リーグ応援番組を聴いた。体温が上げたかった。『ホークス花の応援団』(RKB)、『POWERFUL BASEBALー開幕前日スペシャルーL』(TBC)、『がんばれ山田! 獅子奮迅』(文化放送)、そしてもちろん『ファイターズDEナイト! 開幕前夜スペシャル』(HBC)。まぁ他球団のはつまみ食い程度なんだけど、それぞれの意気込みや期待が伝わってきて、あぁ、始まるんだなぁと思う。

 当日は朝から雨だった。試合はメットライフドームだから影響ないんだけど、神宮やハマスタの様子が気になった。せっかくここまでガマンして開幕に漕ぎつけたのだ、みんなで一緒に始めたいじゃないか。ちなみに僕は自宅でテレビ観戦だった。ステイホームだからますます雨なんて関係ない。スマホで試合前の球場まわりの写真ツイートを拾ってまわった。ホントに西武球場前駅にひと気がない。巨大バルーンのレオ人形もなければ、弁当の売店も出ていない。無観客開幕だ。歴史的な一日だ。光景にソワソワ感がない。違和感。これ、選手もやりにくいんじゃないか。

「点の取り合い」と見立てていたが……

 開幕セレモニーはちょっと寂しかったのだ。歓声の渦のなかに選手は立ってほしいと思った。祝祭性だ。野球祭りの宮出しだ。前の晩、バットを枕元に置いて寝たような男らがギラギラしながらグラウンドに繰り出してくるようでありたい。その点は見え方として勝手が違ったなぁ。もちろん、しょうがないことではあるけれど。

 先発は両軍のエース、西武ザック・ニール、ファイターズ有原航平。まぁ、とにかく僕は先手必勝だとにらんでいた。練習試合を見るかぎり、ニールは調整不足だ。2試合投げて「5回9被安打5失点」「5回8被安打6失点」と散々な内容である。立ち上がりを叩いてしまえばゲームの支配権が握れる。

 一方、山賊打線は絶好調である。練習試合12球団ダントツの.298&69得点。秋山翔吾が抜けた穴は新外国人スパンジェンバーグが完全に埋めてしまった。通称「スパンジー」こそ6月練習試合の首位打者なのだった。34打数17安打(4本塁打)の打率5割! まさか森友哉や山川穂高以上に警戒すべきバッターが山賊入りしようとは。開幕戦では金子侑司を差し置いて1番バッターに抜擢された。間違いなくキーマンになる。

 つまり、導き出される結論は「点の取り合い」だろう。まぁ、うちは有原だから試合はつくってくれる。1回表、2、3点もぎ取ってしまおう。ニールは今年よくないのかもしれない。当初の3月20日開幕のタイミングでも調子が悪かった。立ち上がりを叩いてビッグイニングでもつくったら、下手すりゃ今シーズン棒に振ってくれるかもしれないよ。

 どうですか、何かおかしなこと言ってますか? 僕はとても素直な見立てじゃないかと思うのだ。西武はニール不調、打線絶好調!

開幕投手の有原航平

 ところがフタを開けてみると野球というのはわからない。確かにニールは球数が多かった。3ボールをすぐつくり、フルカウントもしばしば。そこはもしかするとファイターズはじっくり見ていこうという作戦だったのかもしれない。が、球数が多いわりに崩れないのだ。回を重ねるごとに味を出してくる。練習試合とぜんぜん違った。気がつくとニールの術中に完全にはまり、ゴロの山を築いている。

 もうひとつ誤算だったのは山賊打線の読みだ。この日、所沢の山賊たちは品行方正だった。10点も15点も取るような乱暴狼藉は働かずにいてくれた。それは開幕戦の緊張感ゆえかもしれないし、もしかすると無観客試合の異様なムードのせいかもしれない。